制度設計の矛盾――入院・在宅・外来で異なる扱いは現実的か
高市政権下で検討されているOTC類似薬の保険除外だが、その実現可能性については疑問符がつく。最大の課題は、入院患者への投薬をどう扱うかという点だ。
アセトアミノフェンのような基本的解熱鎮痛薬は、病院では日常的に入院患者へ処方される。これが保険給付外になった場合、包括払い(DPC)が主流の入院医療では混合診療の禁止により、全額自費の別会計が必要となる。事務処理の煩雑さもさることながら、患者負担の増大は避けられない。
想定される対応策は2つある。1つは英国方式で、外来のみ保険給付外とし入院では従来通り保険適用する方法だ。しかし、この場合、在宅医療の扱いが問題となる。形式上は外来に含まれるため自己負担となれば、国が推進する在宅移行の方向性と明らかに矛盾する。外来、在宅、入院で保険給付が異なる制度は、整合性に欠ける。
もう1つは、入院で頻用される医薬品をOTC類似薬であっても保険適用のまま温存する方法だ。外来と入院で制度を分けるよりは現実的だが、多くの基本的医薬品が保険給付に残り、政策自体が骨抜きになる可能性が高い。
いずれにせよ、制度的な整合性を確保するのは容易ではなく、この政策の前途は多難と言わざるを得ない。
医療費削減より「無駄の削減」――薬剤師による一元管理の可能性
ここで視点を変えたい。医療費削減そのものが目的化することには慎重であるべきだが、無駄を省くことは必要だ。そして、その鍵を握るのが薬剤師による薬剤管理の強化ではないだろうか。
現在、お薬手帳には処方薬のみが記録されることが多いが、市販薬の情報も含めて一元管理すれば、薬剤師は処方薬と市販薬の重複や相互作用を確認できる。たとえば、医師が処方した解熱鎮痛薬と患者が購入した市販の風邪薬に同じ成分が含まれていれば、過量投与のリスクが生じる。こうした事例は決して少なくない。
薬剤師がお薬手帳を通じて市販薬も含めた服薬状況を把握し、重複や不要な薬剤を指摘することで、患者の安全性が向上するだけでなく、結果として医療費の適正化にもつながる。これは保険適用の有無に関わらず、今すぐにでも取り組める施策だ。
残薬管理とポリファーマシー対策――薬局が果たすべき役割
さらに、残薬情報をお薬手帳に組み込むことができれば、ポリファーマシー問題の改善にも寄与するはずだ。高齢者を中心に、飲み切れずに自宅に残る薬剤は年間数百億円規模に上ると推計されている。薬剤師が残薬の実態を把握し、医師へのフィードバックや処方日数の調整を提案することで、不要な処方を減らすことができる。
ポリファーマシーは単に薬剤数が多いという問題だけではなく、服薬アドヒアランスの低下や有害事象のリスク増大を招く。薬剤師が定期的に薬剤を見直し、本当に必要な薬剤を精査する「薬剤総合評価(ポリファーマシー対策)」の実施は、患者のQOL向上と医療費適正化の両立を実現する手段となる。
薬局は単なる調剤の場ではなく、薬剤管理の拠点として機能すべきだ。そのためには、薬剤師が市販薬や残薬も含めた包括的な薬剤管理を担い、医師や患者と連携する体制を整える必要がある。
制度改革より現場の最適化を――薬剤師への期待
OTC類似薬の保険除外という制度改革は、その実現可能性や影響の大きさから慎重な議論が求められる。一方で、薬剤師による薬剤管理の強化は、制度改革を待たずとも今日から実践できる施策だ。
お薬手帳の活用範囲を市販薬や残薬にまで広げ、薬剤師が一元的に管理する仕組みを構築すること。処方薬と市販薬の併用可能性を判断し、重複や過量を防ぐこと。残薬を把握し、医師へ適切にフィードバックすること。これらは、薬剤師だからこそ担える専門的役割だ。
医療費削減という大義名分の下で拙速な制度変更を行うよりも、現場の薬剤師が持つポテンシャルを最大限に引き出し、薬剤管理の最適化を進めることこそが、患者にとっても医療財政にとっても真に有益なアプローチではないだろうか。
薬局と薬剤師には、その中心的役割を担うことが期待されている。
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