薬局業界が直面する構造的変化
現在、約2万品目の医療用医薬品のうち7000品目がOTC類似薬に該当し、市場規模は1兆円に達している。これらの薬剤が保険適用除外となることで、患者の医療機関受診行動に大きな変化が生じると考えられる。
従来、保険適用により1~3割負担で済んでいたOTC類似薬が全額自己負担となれば、市販薬との価格差は大幅に縮小する。現在、市販薬の価格はOTC類似薬の薬価の約10倍に設定されているが、この価格差の解消により、患者は「わざわざ医療機関を受診するより市販薬を購入した方が便利」という判断を下すケースが増加するだろう。
薬剤師に求められる新たな専門性
この変化は薬剤師にとって、従来の調剤業務中心の役割から、より高度な専門性を活かした患者支援への転換を求められることを意味する。セルフメディケーション推進の流れの中で、薬剤師は以下の能力向上が急務となる。
まず、OTC薬品の適正使用指導である。患者が自己判断で市販薬を選択する機会が増える中、薬剤師は症状に応じた適切な薬剤選択のアドバイス、服薬指導、副作用モニタリングなど、より踏み込んだ患者サポートを提供する必要がある。
次に、医療機関との連携強化である。軽度の症状については市販薬で対応する一方、重篤な疾患の早期発見や適切な医療機関への受診勧奨など、疾患の重症度を見極める判断力が重要となる。特に高齢者においては、複数疾患の管理や薬物相互作用のチェックなど、薬剤師の専門知識がより一層重要な役割を果たすことになる。
薬局経営戦略の見直しが必要
経営面では、調剤料収入の減少を補う新たな収益源の確保が課題となる。OTC薬品の販売強化はもちろん、健康相談サービス、在宅医療支援、予防医療への積極的な参画など、薬剤師の専門性を活かした付加価値サービスの提供が求められる。
また、スイッチOTC薬品の取り扱い拡充も重要な戦略となる。日本OTC医薬品協会が推進するスイッチOTC制度により、より多くの医療用医薬品が市販薬として利用可能となる見込みであり、薬局はこれらの新しい市販薬に関する知識習得と適切な販売体制の整備が必要となる。
患者安全の確保が最優先課題
一方で、日本医師会が懸念するように、受診控えによる重大疾患の見落としリスクは深刻な問題である。薬剤師は市販薬の販売時において、症状の詳細な聞き取り、既往歴や服薬歴の確認、必要に応じた医療機関への受診勧奨など、患者の安全確保を最優先とした対応が求められる。
特に高齢者や慢性疾患患者においては、薬歴管理システムやお薬手帳の活用により、継続的な健康状態の把握と適切な医療機関との連携が重要となる。
OTC類似薬の保険適用除外は、薬局業界にとって大きな変革の機会でもある。薬剤師が調剤業務に留まらず、地域住民の健康管理パートナーとしての役割を果たすことで、セルフメディケーション社会における不可欠な存在として位置づけられる可能性がある。
ただし、この転換を成功させるためには、薬剤師一人ひとりの専門知識の向上、患者コミュニケーション能力の強化、そして医療機関との緊密な連携体制の構築が不可欠である。2026年度の制度変更まで残された時間を有効活用し、薬局業界全体での対応策検討と準備が求められている。
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