icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc

薬局DXニュース解説

2026.02.03

「ゾンビたばこ」が示す新たな薬物乱用の脅威──薬剤師が知るべきエトミデートの薬理と社会的影響

  • facebook
  • twitter
  • LINE

プロ野球選手の逮捕で注目を集めた指定薬物「エトミデート」。海外では麻酔導入に用いられる医薬品が、電子タバコのリキッドに違法添加され「ゾンビたばこ」として若年層に拡散している。2025年5月の指定薬物化以降も摘発が相次ぐ中、薬剤師には患者からの相談対応や地域啓発における重要な役割が求められている。本稿では、エトミデートの薬理作用と健康リスク、そして薬局現場で求められる対応について解説する。

医療用鎮静薬から乱用薬物へ──エトミデートとは何か
エトミデートは、海外では全身麻酔の導入時に用いられる短時間作用型の静脈麻酔薬である。GABA_A受容体に作用して中枢神経系を抑制し、速やかな鎮静・催眠効果をもたらす。循環動態への影響が比較的少ないため、救急医療や集中治療の現場で麻酔導入薬として選択されることがある。
しかし日本では医薬品として未承認であり、医療現場での使用実績はない。それにもかかわらず、近年、電子タバコ用リキッドに違法に添加された製品が「ゾンビたばこ」の通称で流通し、主に若年層の間で乱用が広がっている。中国のSNSに投稿された使用後の映像では、立位を保てずに倒れ込む、四肢の不随意運動を呈する、泥酔様の状態に陥るといった様子が確認されており、その異様な外観から「ゾンビ」という俗称が付けられた。
エトミデート

エトミデート

引用元: Wikipedia

薬理作用と健康被害のメカニズム
エトミデートの乱用がもたらす健康被害は、その薬理作用から多岐にわたる。
中枢神経系への影響
GABA_A受容体を介した強力な中枢神経抑制により、意識レベルの低下、精神錯乱、せん妄、幻覚様症状が出現する。さらに筋緊張の異常や不随意運動、痙攣といった神経症状も報告されている。非医療的な環境下で適切なモニタリングなしに使用された場合、意識消失や呼吸抑制による致命的な転帰も懸念される。

副腎皮質機能への影響
エトミデートは副腎皮質におけるステロイド合成酵素、特に11β-ヒドロキシラーゼを阻害することが知られている。医療現場では単回投与による影響は限定的とされるが、反復使用や長期曝露では副腎皮質機能不全を引き起こす可能性がある。コルチゾール産生低下により、倦怠感、低血圧、電解質異常などが生じ、重症例では副腎クリーゼに至る危険性も否定できない。

内分泌系への影響
11β-ヒドロキシラーゼ阻害はコルチゾール合成経路を遮断する一方で、前駆物質の蓄積によりアンドロゲン産生が亢進する。特に女性では高アンドロゲン血症による月経異常、多毛、ざ瘡などの症状が現れる可能性がある。また鉱質コルチコイド経路への影響により低カリウム血症を呈した症例も報告されている。

規制の現状と摘発事例の増加
日本では2025年5月にエトミデートが指定薬物に指定され、医療等の用途以外の製造、輸入、販売、所持、使用等が禁止された。しかし指定後も摘発事例は後を絶たない。沖縄県を中心に若年層への浸透が確認され、2025年11月には東京都内でも初の逮捕者が出た。さらに12月には現役プロ野球選手が使用容疑で逮捕される事態となり、社会的な関心が高まっている。
警察による家宅捜索では、エトミデートとみられる薬物のほか吸引器も押収されており、電子タバコ様デバイスを用いた吸入摂取が主な使用形態と推測される。入手経路の解明が進められているが、インターネットを介した密売ルートの存在が指摘されている。

薬局・薬剤師に求められる対応
相談対応と情報提供
患者や家族から「ゾンビたばこ」やエトミデートに関する相談を受けた際、薬剤師は正確な情報提供と適切な対応が求められる。使用を疑う症状(意識障害、不随意運動、原因不明の倦怠感や電解質異常など)がみられた場合は、速やかに医療機関受診を勧奨すべきである。

地域啓発活動への参加
学校薬剤師や地域の健康教育活動を通じて、若年層への薬物乱用防止啓発に積極的に関わることが重要である。エトミデートは「安全性が確かめられていない未知の薬物」であり、医療用途以外での使用は予測不能な健康被害をもたらすという点を強調すべきだろう。

多職種連携の推進
薬物依存症の治療には医師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士など多職種の連携が不可欠である。薬剤師は薬物動態や相互作用に関する専門知識を活かし、チーム医療の一員として貢献できる。また地域の精神保健福祉センターや保健所との連携体制を構築しておくことも有用である。
エトミデートの乱用問題は、フェンタニル乱用問題と同じく医療用医薬品が違法に転用され社会問題化した事例として、薬剤師が認識すべき重要なトピックである。指定薬物化により法的規制は強化されたが、新たな乱用薬物は次々と出現する可能性がある。薬剤師には、薬理学的知識に基づいた正確な情報提供、地域における啓発活動、そして薬物依存症患者への支援といった多面的な役割が期待されている。
かかりつけ薬剤師として、あるいは地域の健康相談窓口として、薬剤師が果たすべき社会的責任は大きい。本事例を契機に、薬物乱用防止に向けた取り組みを改めて見直す機会としたい。
  • facebook
  • twitter
  • LINE

RELATED