icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc

薬局DXニュース解説

2025.12.08

2030年に電子カルテ普及率100%へ―改正医療法が描く医療DXの未来と薬局への影響

  • facebook
  • twitter
  • LINE

12月5日、参議院本会議で医療法等の一部を改正する法律が可決・成立しました。今回の改正では、地域医療構想の見直しや医師偏在対策など幅広い内容が盛り込まれていますが、特に注目すべきは医療DX推進に関する具体的な施策です。薬局や薬剤師の業務にも大きな影響を与える可能性があるこれらの施策について、詳しく見ていきましょう。

電子カルテ普及率100%という明確な目標
今回の改正法で最も象徴的なのは、政府が2030年12月31日までに電子カルテの普及率約100%を達成するという目標を法律に明記したことです。これは単なる努力目標ではなく、「実現しなければならない」という義務規定として定められました。これはほぼ義務化と言えます。
現在、中小規模の医療機関では電子カルテの導入率が低く、特に診療所では5割程度にとどまっています。今回の法改正により、クラウドコンピューティングサービスなど先端技術の活用を含めた導入支援が本格化することになります。
薬局においても、この流れは無関係ではありません。医療機関と薬局の間で電子的に情報をやり取りする基盤が整備されることで、処方箋の電子化や服薬情報の共有がより円滑に進むことが期待されます。

電子カルテ情報の医療機関間共有が可能に
改正法では、必要な電子診療録等情報(電子カルテ情報)を医療機関間で共有できる仕組みが導入されます。これにより、患者が複数の医療機関を受診する際、各施設で蓄積された診療情報を相互に参照できるようになります。
薬剤師にとって、この変化は重要な意味を持ちます。現在、患者から聞き取る既往歴や他院での処方内容の確認には限界がありますが、電子カルテ情報共有サービスを通じて、より正確な情報に基づいた服薬指導や薬学的管理が可能になるでしょう。
また、感染症発生届についても、電子カルテ情報共有サービス経由での提出が可能となります。これまで紙ベースや個別システムで行われていた行政への報告業務が標準化されることで、医療機関の事務負担軽減にもつながります。

医療情報の二次利用促進で創薬・研究加速へ
改正法では、厚生労働大臣が保有する医療・介護関係データベースの仮名化情報について、利用・提供を可能とする規定が設けられました。これは、個人を特定できない形に加工したデータを、研究や政策立案に活用できるようにするものです。
薬局が日々蓄積している調剤データや服薬指導の記録も、将来的にはこうした枠組みの中で二次利用される可能性があります。実臨床でのアウトカムデータは、新薬開発や適正使用の検証において非常に価値が高く、薬剤師が記録する情報の重要性がさらに高まるでしょう。
ただし、データの二次利用にあたっては、患者のプライバシー保護が大前提です。仮名化処理の適切な実施と、データ利用に関する透明性の確保が求められます。

社会保険診療報酬支払基金の役割拡大
改正法では、社会保険診療報酬支払基金を医療DX運営の母体として位置づけ、名称や組織体制の見直しが行われます。また、厚生労働大臣が「医療情報化推進方針」を策定することも定められました。
支払基金は、レセプトデータという膨大な医療情報を扱う組織です。この組織が医療DX推進の中核を担うことで、レセプトデータと電子カルテ情報の連携、オンライン資格確認システムとの統合など、より包括的なデータ基盤の構築が期待されます。
薬局では既にオンライン資格確認システムの導入が進んでいますが、今後はこのシステムを通じて、より多様な医療情報にアクセスできるようになる可能性があります。患者の受診履歴や検査結果なども参照できるようになれば、薬剤師の専門性を発揮する場面がさらに広がるでしょう。

オンライン診療の法定義化と薬局への影響
今回の改正では、「オンライン診療」が医療法に正式に定義され、手続規定やオンライン診療を受ける場所を提供する施設に係る規定が整備されます。これまでグレーゾーンだった部分が明確化されることで、オンライン診療の普及が加速すると見られます。
オンライン診療の拡大は、オンライン服薬指導の需要増加にもつながります。既に一定の要件下で認められているオンライン服薬指導ですが、今後は電子カルテ情報の共有基盤と組み合わせることで、より質の高い遠隔での薬学的管理が可能になるでしょう。
特に、過疎地域や通院が困難な高齢者にとって、オンライン診療と服薬指導の組み合わせは医療アクセスの改善につながります。薬局としても、こうした新しいサービス形態に対応できる体制を整えておく必要があります。

段階的な施行スケジュール
改正法の施行日は内容によって異なります。主な医療DX関連の規定については、公布後1年以内から3年以内に段階的に施行される予定です。電子カルテ情報共有サービスに関する規定は比較的早期に施行される見込みで、2026年度中には運用が開始される可能性があります。
一方、電子カルテ普及率100%という目標の達成期限は2030年12月31日です。約5年という期間は、中小医療機関や薬局にとって、システム導入や業務フローの見直しを進めるための猶予期間でもあります。

薬局・薬剤師が今から準備すべきこと
医療DXの推進は、薬局業務の効率化と薬剤師の専門性向上の両面でチャンスとなります。今から準備しておくべきポイントをまとめます。
電子化への対応体制の構築
電子カルテ情報共有サービスへの接続に向けて、自局のシステム環境を確認し、必要に応じてベンダーと連携を進めることが重要です。また、スタッフ全員がデジタルツールを使いこなせるよう、継続的な教育も欠かせません。
データ記録の質向上
今後、薬局が記録する情報の価値が高まります。服薬指導の内容、副作用の有無、患者の状態変化など、詳細かつ構造化された記録を残す習慣をつけることで、医療機関との情報共有や二次利用の際に有用なデータとなります。
オンライン服薬指導への備え
オンライン診療の拡大に伴い、オンライン服薬指導の需要も増えるでしょう。必要な設備や手順を整備し、対面とオンラインを組み合わせた柔軟な対応ができる体制を検討しておくことが推奨されます。
情報セキュリティの強化
医療情報の共有が進むほど、情報漏洩のリスクも高まります。スタッフへのセキュリティ教育、アクセス権限の適切な管理、システムの定期的なアップデートなど、基本的な対策を徹底することが求められます。
医療DXがもたらす薬剤師業務の未来像
電子カルテ情報の共有が実現すれば、薬剤師は患者の全体像をより正確に把握できるようになります。検査値や診断名、他院での処方内容などを参照しながら、より高度な薬学的判断が可能になるでしょう。
また、反復的な事務作業の自動化が進めば、薬剤師は患者とのコミュニケーションや専門的な判断に、より多くの時間を割けるようになります。これは、薬剤師の職能を最大限に発揮し、地域医療における役割をさらに高める機会となります。
今回の法改正は、2040年を見据えた医療提供体制の再構築という大きな文脈の中で位置づけられています。高齢化の進展と人口減少という避けられない変化に対応するため、限られた医療資源を効率的に活用し、質の高い医療を持続的に提供する仕組みが求められています。
医療DXは、そのための重要な基盤です。薬局・薬剤師としても、この変化を前向きに捉え、デジタル技術を活用しながら、患者により良い薬学的ケアを提供していく姿勢が求められるでしょう。
  • facebook
  • twitter
  • LINE

RELATED