2026年度調剤報酬改定の全容が明らかになるにつれ、薬局業界の動揺が広がっている。日本保険薬局協会(NPhA)の三木田慎也会長は2月12日の定例会見で、今改定を「マイナス改定と断言してもいい」と切り捨て、複数の新設ルールに対して異例とも言える全面対決の姿勢を示した。医療テック・ヘルスケア事業者にとっても、薬局の経営環境の変容は処方箋プラットフォームや服薬支援サービスの市場構造に直結する問題だ。
「門前だから減算」——何が問題なのか
今改定で新設される門前薬局等立地依存減算(▲15点)は、病院の近くに新規開局する薬局を対象に調剤基本料から減額するものだ。さらに「500m以内に他の保険薬局がある」「医療機関から100m以内に2軒以上」「周囲50m以内に2軒以上」といった距離基準に該当する場合も減算となる。
三木田会長がまず突いたのは論理の整合性だ。「門前薬局が患者に選ばれているのは、患者自身のマーケットインの選択だ」という主張は、単なる業界擁護ではなく、行動経済学的にも一定の説得力を持つ。アクセス利便性は服薬アドヒアランスと相関するという研究知見もあり、立地規制が患者アウトカムに中立かどうかは検証が必要な問いだ。
距離規制については、かつて薬事法が定めていた同種の規制を最高裁が違憲と判断した判例を持ち出し「昭和の遺物」と批判。行政が再び距離で参入を制限することの法的根拠についても問題提起している。
チェーン薬局への実質的な打撃
距離規制が導入されると、大手薬局チェーンにとって新規出店の候補地が激減する。都市部の好立地はすでに競合が密集しており、減算を前提とした出店は収益モデルを根本から揺さぶる。三木田会長が「競争のない世界になる」と指摘したのは、逆説的に既存薬局の既得権を守る参入障壁として機能しかねないという点だ。
テック視点で見れば、オンライン服薬指導や電子処方箋の普及が進む中、「物理的な立地」で加減算を決める設計思想そのものが時代遅れとも映る。デジタル完結型の調剤モデルをどう評価するかは、今後の改定論議の核心になりうる。
医療モール薬局にも新たな集中率ルール
会員企業への影響として三木田会長がもう一つ挙げたのが、医療モール内薬局の集中率算定方法の変更だ。同一建物・敷地内の複数医療機関を「一つの医療機関とみなす」新ルールにより、集中率が一気に高まり、特定の加算の算定要件を満たせなくなるケースが続出する見通しだ。「マイナスインパクトが大変大きい」という表現は、具体的な試算を踏まえたものだろう。
唯一の"成果"と、残された課題
全面批判の中で三木田会長が唯一前進と評価したのが、かかりつけ薬剤師の継続在籍要件の「6ヵ月以上」への緩和だ。ただし同時に「週31時間以上の勤務」「保険薬剤師として3年以上の経験」などの要件が維持・強化され、かかりつけ薬剤師指導料の廃止にともない、かかりつけは他の技術料の算定要件に吸収された。
NPhAが特に問題視するのは、女性薬剤師比率の高さだ。育児・介護との両立を迫られる就業形態が多い現実を無視した要件設定だという批判は、薬局業界の労働市場問題としても注目に値する。
今改定の構造はシンプル
立地・距離・集中率という三つのメカニズムで大手チェーンの拡張を抑制し、地域分散・かかりつけ化を促す政策意図が透けて見える。ただしその手法が市場競争を歪め、結果として薬局サービスの質を下げるリスクを内包しているという批判は、政策評価として真剣に受け止める必要がある。電子処方箋の普及やオンライン服薬指導の拡充が進む今こそ、「立地で質を担保する」という前提を問い直すタイミングかもしれない。
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