審議会での決定内容
厚労省の審議会では、解熱鎮痛剤など市販薬と成分がほとんど同じOTC類似薬について、保険適用を完全に除外するのではなく、適用を維持したうえで患者に追加負担を求める方向で検討することが決まった。審議会では大半の委員から「現実的」「妥当」という意見が出され、完全除外による患者負担増を回避する判断が下された。
今後は対象品目や追加負担額、子どもや慢性疾患患者、低所得者への配慮について具体的な検討が進められる予定だ。
薬局が懸念すべき処方シフトの実態
しかし、この決定には見落とされがちな問題がある。OTC類似薬への追加負担が導入されれば、医師の処方行動が変化し、より高額な保険適用薬にシフトする可能性が高い。
具体的には以下のようなケースが想定される。
疼痛管理での変化
アセトアミノフェンやロキソニンといった比較的安価な解熱鎮痛剤から、トラマドール(トラマール)やプレガバリン(リリカ)などのオピオイド系や神経障害性疼痛治療薬への処方変更だ。前者が1錠あたり数円から十数円程度であるのに対し、後者は数十円から百円以上のコストとなる。
アレルギー治療での変化
フェキソフェナジン(アレグラ)などの第二世代抗ヒスタミン薬から、オロパタジン(アレロック)など追加負担のかからない処方薬への切り替えが進む可能性がある。薬価差は限定的だが、処方全体でみれば医療費への影響は小さくない。
消化器疾患での変化
ファモチジン(ガスター)やランソプラゾール(タケプロン)といったH2ブロッカーやPPIから、ボノプラザン(タケキャブ)などの新規PPIへの移行だ。タケキャブは1錠あたり100円を超える薬価であり、従来薬との差は顕著だ。
これらの処方変更が広範囲で起これば、個々の患者負担は抑えられても、医療保険財政全体としては支出が増大する矛盾が生じる。
薬局薬剤師が果たすべき役割
この状況で薬局薬剤師に求められるのは、処方監査と疑義照会の質的向上だ。
単にOTC類似薬への追加負担を避けるためだけに高額薬が処方されていないか、薬学的判断に基づいた処方選択がなされているかを見極める必要がある。特に軽症例や初期治療において、段階的な薬物療法(ステップケア)の原則が守られているかの確認が重要となる。
また、患者への服薬指導では、OTC類似薬と高額薬の効能や副作用プロファイルの違いを丁寧に説明し、患者自身が治療選択について理解を深められるよう支援することが求められる。追加負担を避けたいという患者の心理を理解しつつも、医学的に最適な選択を支持する姿勢が必要だ。
セルフメディケーション推進との整合性
今回の方針には、もう1つの矛盾がある。国が推進してきたセルフメディケーションとの整合性だ。
軽症例では市販薬での対応を促し、医療機関受診を減らすことが政策目標だったはずだ。しかし、OTC類似薬への追加負担が導入されれば、患者は追加負担のない高額処方薬を求めて医療機関を受診する動機が高まる。結果として、セルフメディケーション推進という政策目標と逆行する事態になりかねない。
薬局薬剤師は、OTC医薬品の適切な選択支援を通じて、この矛盾を緩和する役割を担う。軽症例では市販薬での対応が可能であることを患者に伝え、不要な医療機関受診を減らすトリアージ機能を発揮することが期待される。
医療経済的視点からの課題
医療費抑制という当初の政策目的を達成するには、処方実態のモニタリングが不可欠だ。OTC類似薬への追加負担導入後、実際にどのような処方パターンの変化が起きているか、データに基づいた検証が必要となる。
薬局は処方せんを通じて地域の処方動向を把握できる立場にある。医療費適正化という観点から、異常な処方シフトが認められた場合、地域の医療機関や医師会と情報共有し、適正処方を促す取り組みが求められる。
また、薬剤師自身も、ジェネリック医薬品への変更提案を積極的に行うことで、医療費抑制に貢献できる。OTC類似薬への追加負担が導入されても、ジェネリック医薬品の活用によって患者負担と医療費の両面で最適解を見出す努力が必要だ。
今後の展開と薬局の対応
厚労省は今後、対象品目や追加負担額、配慮対象者の範囲について具体的な検討を進める。薬局としては、この制度設計の過程で、現場の実態を反映させる働きかけが重要となる。
特に慢性疾患患者への配慮は重要だ。長期間にわたって同じ薬を服用する患者にとって、追加負担の累積は大きな経済的負担となる。配慮措置の対象範囲や負担軽減の具体策について、患者の実態に即した制度設計が求められる。
子どもへの配慮も欠かせない。小児では体重に応じた用量調整が必要であり、市販薬では対応が難しいケースも多い。小児用製剤の確保と適切な処方が維持されるよう、制度設計に注目する必要がある。
低所得者への配慮については、現行の医療費助成制度との整合性を図りながら、追加負担が医療アクセスの障壁とならないよう配慮が必要だ。
OTC類似薬の保険適用維持という方針は、患者の急激な負担増を避けるという点では評価できる。しかし、追加負担の導入によって処方が高額薬にシフトすれば、医療費抑制という本来の政策目的は達成できない。
薬局薬剤師には、この矛盾を現場で緩和する役割が求められる。適切な疑義照会、丁寧な服薬指導、OTC医薬品の選択支援、ジェネリック医薬品の推奨など、多面的なアプローチを通じて、患者にとっても医療保険財政にとっても最適な薬物療法を実現することが期待される。
制度の詳細が明らかになる今後数か月間、薬局は情報収集を怠らず、現場の声を制度設計に反映させる努力を続けるべきだ。
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