OTC類似薬の追加負担導入と2026年度診療報酬改定が決着――薬局・薬剤師への影響を読み解く
政府は2025年度にOTC類似薬への患者追加負担制度を創設し、約1100品目を対象に薬価の25%を全額自己負担とする方針を固めた。同時に、2026年度診療報酬改定では本体プラス3.09%が決定され、賃上げ対応1.70%を含む大幅な引上げが実現した。両施策は薬局経営と薬剤師の役割に大きな変化をもたらす可能性がある。
OTC類似薬の追加負担制度―保険外しから一転、政治決着へ
自民党と日本維新の会は12月19日、OTC類似薬に対する新たな患者負担制度の導入で合意した。当初、維新が主張していた完全な保険外しは見送られ、薬価の25%を患者が追加負担し、残る75%に通常の保険(1~3割負担)を適用する折衷案となった。対象は77成分約1100品目で、湿布薬やアレルギー薬が想定される。
制度開始は2025年度末の見通しで、政府は2025年の通常国会に関連法案を提出する。子どもや癌患者、難病患者は対象外となる予定だ。約900億円規模の医療費削減を見込むが、患者の受診抑制とOTC医薬品へのシフトを前提としている点には注意が必要だろう。
薬局・薬剤師への影響
この制度変更は薬局の業務に複数の影響をもたらす。まず、対象医薬品の調剤時に患者への説明負担が増加する。追加負担の仕組みや金額、OTC医薬品への切替え可能性を丁寧に説明する必要があり、服薬指導の時間が延びることが予想される。
患者からは「なぜこの薬だけ負担が増えるのか」「市販薬に変えるべきか」といった質問が増えるだろう。薬剤師には、対象医薬品とOTC医薬品の違いを正確に説明し、患者の症状や経済状況に応じた適切なアドバイスを提供する能力が求められる。
また、処方箋枚数の減少リスクも考慮すべきだ。負担増を嫌う患者が受診を控え、OTC医薬品を選択すれば、調剤報酬による収入が減少する可能性がある。一方で、OTC医薬品販売の機会は増えるため、セルフメディケーション支援体制の強化が重要になる。
レセプトコンピューターや電子薬歴システムの改修も必要だ。対象医薬品を自動判別し、追加負担を正確に計算・表示する機能の実装が求められる。システムベンダーとの連携を早期に開始し、制度開始までに万全の準備を整えることが望ましい。
2026年度診療報酬改定―本体プラス3.09%の内訳
政府は12月19日、2026年度診療報酬改定で本体をプラス3.09%引き上げることを決定した。内訳は賃上げ対応1.70%、物価対応0.76%、光熱水費(食費含む)0.09%、過去の物価対応0.44%、政策改定0.25%、適正化マイナス0.15%となった。
医療関係団体は賃金・物価高騰を背景に大幅なプラス改定を求めていたが、財務省は適正化・効率化の必要性を主張し、病院と診療所・調剤報酬のメリハリ付けを求めていた。最終的に厚労省の主張が一定程度受け入れられた形だが、当初要求の5%には届かなかった。
調剤報酬への影響と懸念
今回の改定率決定過程で注目すべきは、財務省が「診療所分や調剤報酬のメリハリ付け」を明言した点だ。これは、病院への手厚い配分と引換えに、調剤報酬が抑制される可能性を示唆している。
実際の点数配分は今後の中央社会保険医療協議会での議論を経て決まるが、薬局は厳しい改定を覚悟すべきだろう。対物業務から対人業務への転換や、地域包括ケアへの貢献を評価する項目が重点的に引き上げられる一方で、基本的な調剤技術料や薬学管理料は据え置きか引下げとなる可能性がある。
特に、医薬品の備蓄や管理といった従来型業務への評価は厳しくなると予想される。薬局はこれまで以上に、服薬フォローアップ、在宅医療支援、多職種連携といった対人業務の実績を積み上げ、改定時にその価値を示すことが重要だ。
医療DX・ICT化への期待と課題
今回決定された施策はいずれも、医療DXやICT化を前提とした制度設計といえる。OTC類似薬の追加負担制度では、対象医薬品の自動判別や負担額計算にシステム対応が不可欠だ。また、患者への説明資料作成や、処方医へのフィードバックにも電子化されたワークフローが求められる。
診療報酬改定でも、対人業務の評価強化には電子薬歴やトレーシングレポートの活用が前提となる。服薬フォローアップの実施状況や患者アウトカムをデータとして蓄積し、可視化できる薬局が評価される方向性は明らかだ。
電子処方箋とマイナ保険証の普及が鍵
これらの制度変更を円滑に運用するには、電子処方箋とマイナンバーカード保険証(マイナ保険証)の普及が不可欠だ。電子処方箋が普及すれば、対象医薬品情報の自動取得や、患者への事前通知が可能になる。マイナ保険証の活用により、患者の負担区分や対象外該当(子どもや難病患者など)の自動判定も実現できるだろう。
しかし、現状では電子処方箋の普及率は低く、マイナ保険証の利用も限定的だ。薬局は患者への利用促進を働きかけるとともに、紙の処方箋と並行運用する体制を当面維持する必要がある。この二重対応が現場の負担増につながる懸念は否めない。
セルフメディケーション支援の新たな役割
OTC類似薬の追加負担制度導入により、薬剤師のセルフメディケーション支援の重要性が増す。患者が適切にOTC医薬品を選択できるよう助言することは、患者の利益と医療費適正化の両立につながる。
この役割を果たすには、OTC医薬品に関する知識のアップデートが欠かせない。医療用医薬品との成分・効能の違い、相互作用のリスク、使用上の注意点を正確に理解し、患者の状態に応じた推奨を行う能力が求められる。
また、OTC医薬品の適応外と判断した場合は、受診勧奨を適切に行うことも重要だ。追加負担を嫌って受診を控える患者に対し、症状が重篤化する前に医療機関につなぐ判断力が、薬剤師の専門性として評価されるべきだろう。
今後の展望――薬局・薬剤師に求められる変化
2027年度以降、OTC類似薬の対象範囲拡大や追加負担割合の引上げが検討される。薬局経営への影響はさらに拡大する可能性があり、早期の対応準備が求められる。
同時に、診療報酬改定の方向性から、薬局は対物業務中心のビジネスモデルからの脱却を迫られている。服薬フォローアップ、在宅訪問、健康サポート、多職種連携といった対人業務への注力が、今後の薬局経営の生命線となる。
医療DX・ICT化への投資も避けられない。電子薬歴、トレーシングレポート、オンライン服薬指導、患者ポータルといったツールを効果的に活用し、業務効率化と質の向上を同時に実現する必要がある。
薬剤師には、制度変更への柔軟な対応力と、患者中心の視点を持った専門性の発揮が求められる。追加負担や報酬改定といった外部環境の変化を、薬局・薬剤師の価値を再定義する機会と捉え、積極的に取り組む姿勢が重要だろう。
OTC類似薬への追加負担制度と2026年度診療報酬改定は、薬局・薬剤師に大きな転換を迫る施策だ。患者説明の増加、システム改修、セルフメディケーション支援の強化、対人業務への注力など、多面的な対応が必要となる。医療DX・ICT化を推進し、患者アウトカムを可視化できる薬局が、今後の医療制度改革の中で評価される。変化を機会と捉え、薬剤師の専門性を発揮することが、これからの薬局経営の鍵となるだろう。
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