icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc

薬局DXニュース解説

2025.10.20

歴代公衆衛生総監が発する警告──米国の混乱が日本の薬局現場に投げかける問い

  • facebook
  • twitter
  • LINE

米国の6人の元公衆衛生総監が、現職のロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官に対して「国民の健康を危険にさらしている」と異例の共同警告を発した。ワシントン・ポスト紙に掲載されたこの意見書には、トランプ政権下で任命されたジェローム・アダムス氏を含む超党派の6名が名を連ねている。

前例のない共同声明が意味するもの

「これまで、このような共同の公的警告を発したことはない」と前置きした上で、彼らはケネディ長官の政策が「即座かつ前例のない脅威」をもたらしていると断言した。特筆すべきは、この声明が党派を超えた医療専門家の総意であるという点だ。公衆衛生の最前線で指揮を執ってきた彼らが政治的立場を超えて結集したという事実は、事態の深刻さを物語っている。

科学的根拠の軽視が招く具体的危機
元公衆衛生総監たちが指摘する問題は多岐にわたる。ケネディ長官はCDCのワクチン諮問委員会の17名全員を解任し、「基本的な資格すら欠く人物」で委員会を構成した。HPVワクチンに関する根拠のない主張、ワクチンと自閉症を結びつける陰謀論の拡散、そして30年ぶりの最悪の麻疹流行への対応失敗──3名の予防可能な死者と、20年以上ぶりとなる小児の麻疹関連死を招いた。
薬局薬剤師の立場から見れば、これらの動きは単なる遠い国の政治問題ではない。患者からのワクチンに関する疑問や不安に日々向き合う私たちにとって、公的機関のトップが科学的根拠を無視した情報を発信することは、現場での信頼構築を著しく困難にする。

製薬産業への波及効果と日本への影響
米国厚生省(HHS)内部では、科学者たちが「沈黙を強いられ、脇に追いやられている」と感じており、士気は深刻に低下している。FDA、CDC、NIHといった世界の医薬品規制をリードしてきた機関への信頼が揺らぐことで、新薬開発のエコシステム全体が萎縮する懸念がある。
米国の製薬企業が研究開発投資を躊躇すれば、その影響は日本にも及ぶ。多くの革新的医薬品は米国で開発され、日本市場にも導入されてきた。規制当局への不信、科学的助言体制の崩壊、臨床試験データへの疑念──こうした要素が複合的に作用すれば、グローバルな創薬パイプラインそのものが停滞しかねない。
薬局の棚に並ぶ医薬品の多くは、国際的な研究開発ネットワークの成果物だ。その源流が濁れば、数年後には日本の患者が新しい治療選択肢にアクセスできなくなる可能性すらある。

日本国内にも存在する同様の懸念
忘れてはならないのは、日本にも反ワクチン思想を持つ政治家が存在するという事実だ。SNSを通じて科学的根拠に乏しい主張が拡散される現代において、政治的影響力を持つ人物が公衆衛生政策を歪める可能性は、決して対岸の火事ではない。
薬局の窓口では、インターネット上の誤情報に影響された患者と対話する機会が増えている。「ワクチンは危険だとネットで見た」「自然な免疫の方が良いと聞いた」──こうした声に科学的根拠をもって応える役割を担う私たち医療専門職にとって、政治指導者が発する言葉の重みは計り知れない。

新政権への祈念──科学を尊重する人選を
日本では近々新政権が発足する。その際、厚生労働大臣をはじめとする閣僚人事において、科学的根拠を尊重し、公衆衛生の専門性を理解する人物が選ばれることを切に願う。
元公衆衛生総監たちは声明の中で述べている。「改革は真実、透明性、科学的証拠に基づかなければならない。この基盤がなければ、進歩を止めるだけでなく後退させ、命を犠牲にする危険がある」と。
薬局薬剤師として地域医療の最前線に立つ私たちは、政策決定者に対して明確なメッセージを送る必要がある。公衆衛生政策は、科学的根拠に基づき、専門家の助言を尊重し、国民の健康を最優先する人物によって導かれるべきだと。

現場からの声を政策に反映させる責務
6人の元公衆衛生総監は「これは政治を超えた問題だ。アメリカ国民の健康を第一に考えることが重要だ」と結論づけた。この勇気ある発言は、医療専門職が政治的報復を恐れず、科学的真実を守る姿勢を示している。
日本の薬局薬剤師、医師、看護師、そして全ての医療従事者にも、同様の覚悟が求められる時代が来ているのかもしれない。患者の健康を守るために、科学的根拠を軽視する動きには毅然と声を上げる──それが専門職としての責務であり、米国の混乱から学ぶべき教訓ではないだろうか。
薬局という地域の健康拠点で日々患者と向き合う私たちだからこそ、公衆衛生政策の方向性に敏感であり続けなければならない。そして新政権には、国民の健康を真に守る人材の登用を強く期待したい。
  • facebook
  • twitter
  • LINE

RELATED