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薬局DXニュース解説

2025.03.21

米国で麻疹流行、保健福祉長官のタラ肝油推奨発言に医療界から懸念の声

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米国南部のテキサス州を中心に麻疹の大流行が続いており、患者数は160人を超える事態となっています。特に注目すべきは、トランプ政権の新保健福祉長官ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が、科学的に実証されたワクチン接種を推奨する代わりに、「タラ肝油が効果的」と発言したことで、医療界から強い批判を受けています。

米国で麻疹流行の現状と重症化リスク

現在確認されている160人の麻疹患者のうち、80人はワクチン未接種であることが判明しており、残りの74人は接種状況が不明です。すでに20人が重症化して入院しており、ワクチン未接種の子ども1名が死亡しました。米国で麻疹による死者が確認されたのは約10年ぶりとなります。
麻疹は非常に感染力が強く、ワクチン未接種者の感染率は90%にも達します。CDC(米疾病予防管理センター)によると、幼稚園児のワクチン接種率は依然として90%以上を維持しているものの、2019~20年の95%から2023~24年には93%へと減少傾向にあります。
日本と世界の麻疹
麻疹(はしか)の現状と危険性
コロナ禍以降、ワクチン接種への懐疑的風潮が高まり、日本でも未就学児の予防接種率低下が懸念されています。麻疹は単なる「発疹性疾患」と軽視される傾向がありますが、歴史的には江戸時代以前から流行のたびに天然痘に匹敵する死者を出してきた深刻な感染症です。免疫を持たない集団での感染力は極めて高く、国内でも度々、海外からの観光客が麻疹を国内で発症し移動経路の電車や飛行機でのクラスター発生リスクが懸念されています。

米国の状況とケネディ長官発言の問題点
米国ではテキサス州とニューメキシコ州で感染爆発が発生し、2025年1-2月だけで例年の全米年間感染者数に匹敵する患者数を記録。さらに週3割増のペースで拡大中です。
ケネディ長官が推奨する「タラ肝油(ビタミンA・D)療法」については、栄養失調が一般的な開発途上国の子どもには補助的効果が報告されていますが、先進国の一般的な食生活ではビタミンA不足はほぼ存在せず、むしろ過剰摂取のリスクのほうが高いとされています。特に肝油製品は高濃度ビタミンAを含むため、医学的には危険な過剰摂取を招きかねない不適切な推奨といえます。
ワクチン懐疑論と政府高官の問題発言
接種率低下の背景には、新型コロナウイルスのパンデミックを経て広がったワクチンへの懐疑的な見方があります。ケネディ長官自身も、就任前からワクチン懐疑論者として知られていました。

フォックスニュースのインタビューで、ケネディ長官は「麻疹患者が高濃度のビタミンAとDを含むタラ肝油で治療を受けて効果をあげている」と発言。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙は「医師が麻疹に対してこのようなサプリメントを使用したという話は聞いたことがない」と、専門家による効果否定のコメントを掲載しています。

特に問題視されているのは、保健福祉のトップであるケネディ長官がインタビュー中、一度もワクチン接種を呼びかけなかった点です。科学的根拠に基づく公衆衛生対策よりも代替療法を推奨するこうした態度が、さらなるワクチン懐疑論を助長するのではないかと、医療界から強い懸念の声が上がっています。
科学の灯を消さないために
それにしても、世界最先端の医療大国であった米国の保健福祉長官が「麻疹にタラ肝油を投与しろ」などと民間療法のような助言をするという異常事態には驚きと落胆を禁じえません。政権発足わずか数ヶ月で医療が数百年後退したかのような現状は、科学と医療の未来にとって深刻な警鐘と言えるでしょう。

日本でも政治家の中にはこうした反ワクチンなどの科学的根拠のない陰謀論に傾倒する議員も少なくありません。こうした「科学の後退」が私たちの国でも起こらないよう、常に警戒が必要です。エビデンスに基づく医療の灯を守り、政治的思惑によって公衆衛生の基盤が揺らぐことのないよう、医療専門職として声を上げ続けることが、私たち医療従事者の責務なのかもしれません。
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