実店舗での購入が6割超:薬剤師による販売管理体制の見直しが急務
今回の調査で最も注目すべき点は、乱用目的での薬物入手先として「薬局・ドラッグストアなどの実店舗」が64.2%を占めていることである。これは薬剤師による適切な販売管理システムが十分に機能していない現状を如実に示している。
オーバードーズのリスクが高い医薬品の多くは第一類医薬品に分類されており、薬剤師による情報提供と服薬指導が法的に義務付けられている。特に、せき止め薬や解熱鎮痛薬といったオーバードーズのリスクが高い医薬品については、購入者の年齢、購入頻度、購入量などを総合的に判断し、不適切な使用が疑われる場合には販売を断る責任が薬剤師にある。
しかし、64.2%という数値は、こうした安全装置が現場レベルで十分に活用されていないことを意味する。薬剤師は改めて、単なる販売員ではなく医療従事者としての専門性と責任を自覚する必要がある。
若年層の「生きづらさ」に向き合う薬剤師の役割
調査を実施した国立精神・神経医療研究センターの嶋根卓也研究室長は、乱用の背景に孤立や「生きづらさ」があると指摘している。これは薬剤師にとって、単に薬を販売するだけでなく、購入者の心理的な状況にも注意を向ける必要があることを示唆している。
特に中学生など若年層が一人で来店し、大量購入や頻繁な購入を行う場合、薬剤師は適切な質問を通じて使用目的を確認し、必要に応じて保護者への連絡や専門機関への相談を促すことが求められる。これは医療従事者として当然の責務であり、法的な販売拒否権限を適切に行使することが重要である。
地域医療の最前線としての薬局の責任
薬局・ドラッグストアは地域住民にとって最もアクセスしやすい医療機関である。この立地的優位性は、同時に大きな責任を伴う。薬剤師は日常業務の中で、処方薬の調剤だけでなく、市販薬の適正使用についても専門家として指導する立場にある。
今回の調査結果は、薬剤師が若年層の薬物乱用防止における重要な役割を担っていることを再認識させる。売上や効率性を優先するあまり、本来の医療従事者としての使命を見失ってはならない。
実践すべき対策と今後の課題
薬剤師および薬局経営者は以下の対策を直ちに実施すべきである。
販売時の確認体制強化:若年者による第一類医薬品の購入時には、使用目的、症状の詳細、過去の購入履歴を必ず確認する。複数回の来店や大量購入の場合は特に慎重な対応が必要だ。
スタッフ教育の徹底:薬剤師だけでなく、登録販売者や事務スタッフも含めて、市販薬乱用の兆候や対応方法について定期的な研修を実施する必要がある。
地域連携の構築:学校、保健所、医療機関との連携体制を構築し、疑わしいケースについては適切な機関への相談・紹介を行う仕組みを整備することが求められる。
中学生55人に1人という数値は決して看過できない深刻な問題である。薬剤師は医療従事者としての専門性と倫理観を持って、この問題に真摯に取り組む必要がある。適切な販売管理こそが、若年層の健康と未来を守る最前線の防波堤となることを改めて認識し、日々の業務に臨むべきである。
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