米国医師会内科専門誌「JAMA Internal Medicine」に掲載された最新の研究結果によると、34,332名の参加者を対象とした73件の臨床試験のシステマティックレビューとメタ解析において、抗インフルエンザ薬の実際の治療効果は従来考えられていたよりもはるかに限定的であることが示された。
この研究では、現在使用されている主要な抗インフルエンザ薬について、死亡率や入院率、症状持続期間などの観点から詳細な分析が行われた。その結果、標準治療やプラセボと比較した場合、すべての抗ウイルス薬は低リスク患者および高リスク患者の死亡率にほとんど影響を与えないことが高い確実性で示された。
入院リスクに関しては、低リスク患者においてはペラミビル(ラピアクタ)とアマンタジンを除くすべての抗ウイルス薬で、ほとんどまたはまったく効果が認められなかった。高リスク患者については、広く使用されているオセルタミビル(タミフル)の効果は極めて限定的であり、バロキサビル(ゾフルーザ)がわずかにリスクを軽減する可能性が示唆されたものの、その確実性は低いとされている。
世界のタミフル消費量の4分の3を占める日本
日本の医療における特異な状況として、世界における抗インフルエンザ薬タミフル(一般名:オセルタミビル)の消費量の約75%を日本が占めているという事実がある。2000年代初頭から現在に至るまで、この傾向は大きく変わっていない。
世界保健機関(WHO)は「健康な成人のインフルエンザに対する抗ウイルス薬の使用は必須ではない」との見解を示している。欧米諸国では、重症化リスクの高い患者や重症例に限って抗インフルエンザ薬が処方される傾向にある。
一方、日本では「インフルエンザと診断されたら、ほぼ自動的に抗インフルエンザ薬が処方される」という医療慣行が定着している。この背景には、1957年のアジアインフルエンザ大流行時の経験から、インフルエンザを重症感染症として捉える医療文化や、患者側の「薬を処方してもらわないと気が済まない」という意識が影響していると考えられる。
特筆すべき点として、症状緩和効果については薬剤間で差異が見られた。バロキサビルは症状持続期間を約1日短縮する可能性が中程度の確実性で示され、ロシアと中国で使用されているウミフェノビルも同様の効果が示唆された。一方、オセルタミビルは重要な効果をもたらさないことが確認された。
安全性の観点からは、バロキサビルは高い確実性で有害事象がほとんど認められなかったのに対し、オセルタミビルでは悪心や嘔吐などの有害事象の増加が中程度の確実性で報告された。
これらの知見は、インフルエンザ治療における従来の考え方に再考を促すものである。特効薬という認識で広く使用されてきた抗インフルエンザ薬だが、その治療効果は極めて限定的であることが明確となった。このことから、予防的なアプローチ、すなわちワクチン接種や適切な換気、三密回避、必要に応じたマスク着用などの感染予防策の重要性が改めて強調される結果となった。
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