遠藤 朝朗
株式会社グッドサイクルシステム 取締役
株式会社EMシステムズ 上席執行役員 企画本部 調剤企画部長
薬局システム業界の第一人者。電子薬歴の創生期から設計開発に携わる。
ユーザー薬剤師からの「薬局で先確認業務を支援するシステムを作ってほしい」との声を聞き、 2004年12月に同社を設立。
株式会社グッドサイクルシステム
2004年設立。「この薬局で良かった」をサポートすることを企業パーパスとして掲げ、スマート薬歴GooCoを中心に様々な薬局支援システムを開発。薬局業界のDX推進に貢献。
2023年にレセコンでトップシェアを誇る株式会社EMシステムズ(以下EMシステムズ)の連結子会社となり、現在はEMシステムズのクラウドレセコンと株式会社グッドサイクルシステム(以下グッドサイクルシステム)のクラウド薬歴を融合したMAPs for PHARMACYを展開中。
開発コンセプトは「電子処方箋時代のオールインワンシステム」
MAPs for PHARMACY DXの開発経緯について教えてください。
元々、電子処方箋時代への対応として、グッドサイクルシステムでは2016年に「サキレセ!」というクラウドレセコンを、EMシステムズでは2019年に「MAPs for PHARMACY (初代MAPs)」というレセコン・電子薬歴一体型クラウドレセコンをリリースしていました。今はEMシステムズと連携していますが、元々は別の会社でした。
私が「サキレセ」でやろうとしていたことは、
電子処方箋時代に必要となる「レセコンと電子薬歴の密連携」新しい時代の一体型
具体的にいうと、今、オンライン資格確認(以下、「オン資」と略す)から薬剤情報や特定検診の情報などいろんな情報が得られますが、電子薬歴の分離型だと取り決めが無いので、
・電子薬歴から「オン資」の情報を参照できない
・調剤した結果をレセコンに再度入力しないと「オン資」にアップできない
といった問題が発生します。これらを考えると、
・電子処方箋時代には、レセコン・電子薬歴の一体型で、連携を緊密にした方が良いだろう
また、もう一つの理由として、複雑化する薬局業務への対応があります。
コロナがあってオンライン服薬指導が実質的に始まり、薬の配送も始まりました。すると、
・薬局での処方箋の受付方法が多様化:「来局して持参」「fax」「アプリから写真送信」「電子処方箋」と複数パターン
・服薬指導も、「処方箋が届いた順番に対応」→「オンライン服薬指導の場合は、●時に始めますと予約をし、その時間が来たら対応」することになる
・薬の配送がある場合は、配送されたかの確認が必要になる
このように薬局業務が複雑化する中、きちんと患者毎にステータス管理をしないと「忘れていた」「対応が漏れていた」という患者クレームが発生すると考えました。今、すでにそういったクレームが発生している薬局もあると思います。
これらの対応には、処方箋受付のICT化に加えて、薬局業務のICT化、薬局業務の一元管理が必要になる。
だから、新しい時代のレセコン・電子薬歴一体型システムを作ろうと考えていました。
しかし、コロナによる影響で「サキレセ」の新規販売が計画通りに伸びず、ユーザーが少ない中でも法改定対応は待った無しで行う必要があり、グッドサイクルシステムでは、「サキレセ」の開発費が重荷となっている状況でした。そんな時に、EMシステムズから「当社は電子薬歴分野が弱いという課題があるから、お互いの強みを活かして一緒にやらないか」というお話がありました。
クラウド型 電子薬歴・レセコン・在庫一体システム MAPs for PHARMACY DX
電子処方箋時代を見据えMAPs for PHARMACYとスマート薬歴GooCo、Followcareが融合
そして、調剤レセコン分野でトップシェアのEMシステムズと薬歴専業として長年のノーハウと実績をもったグッドサイクルシステムが手を組み、「私が温めてきたアイディアをEMシステムズとの新しい一体型で実現しよう」と開発したのがMAPs for PHARMACY DX です。
電子処方箋時代のオールインワンシステム MAPs for PHARMACY DX
課題解決の目的を明確化することが薬局DXの第一歩
MAPs for PHARMACY DXで解決できる課題や特徴について教えてください。
MAPs for PHARMACY DXは、モノから人への対人業務強化や業務効率化はもちろんのこと、薬局が抱える経営課題題に対してMAPs for PHARMACY DXという薬局のITインフラを通して「この課題に対しては、こういう使い方が出来ます」とご提案できる、課題ごとに別のシステムを導入するのではなく、一つのシステムを通して解決していくことを狙いとしています。
薬局の経営課題の例としては
・患者獲得・売上:ドラッグストアの増加により、個人・中小薬局では処方箋の獲得に苦労されている
・制度対応:オンライン資格確認や電子処方箋対応、オンライン服薬指導などにどう対応していくか
・情報共有:チェーン化しているが、それぞれがバラバラのことをしていてチェーンとしてのメリットを生かし切れていない
・経営マネージメント:チェーン化したことでマネージャーの管理業務が多くなり疲弊してしまうようなマネージメントの問題
・人材管理:働き方改革も叫ばれる中、対人業務を適切に評価し、給与等に連携していかなければ現場薬剤師の「やりがい」につながらず、改善や対人業務強化が持続的に進んでいかない
・薬局のセキュリティ対策:今年の4月から薬局のサイバーセキュリティ対策が義務化され、5月31日には「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」が出されたことで、薬局のセキュリティ対策が緊急の課題。
これらの課題を、電子処方箋時代のオールインワンシステムとしてMAPs for PHARMACY DXを通して解決のご提案をしていくことが特徴です。
薬局のシステム選定で重要なポイントは?
薬局は課題ごとにシステムを導入するのではなく、課題を解決してどんなことを実現したいのかという目的や解決後のありたい姿(ビジョン)を明確にして、その最終的な目的やビジョンを達成しうるシステムを選択することが重要です。
DXを成功させるために重要な「3つの視点」を教えてください。
DXを成功させるには、「顧客志向・対人業務強化(ユーザーとのつながり)」「業務システム」「データ分析・経営サポート」の視点から「何のためのシステムなのか」という目的をはっきりさせることが重要です。
そして、目的に合わせた取り組みを行い、今の取組みがうまくいっているのか必ず数値で把握し「データ分析」をする。データ分析した上で、やり方を変えてみる等の「改善」を加える。
この3つの視点を調剤システムに取込し、うまく連携していくことでDXの取組みを成功させることができると思います。
これからの薬局経営、DXの成功に不可欠となる「分析」ツールとして、私共では保険薬局向けデータ集積・分析ツール「BunseQI」をご用意しております。保険薬局が持つビッグデータの可視化により、薬局経営にとって最良の意思決定をサポートします。
BunseQIでは、単純な全店舗の集計から
・「慢性期と急性期」に分けて分析したらどうなのか
・店舗別に分析したらどうなのか
・店舗でも売上や顧客別に分析したらどうなのか
という点を簡単に深堀して見ていくことができます。
また、先ほど「薬剤師の人事評価」という話がありましたが、「指導薬剤師の受付回数」の数値から、
・「かかりつけ薬剤師指導料」を算定している回数がどれくらいあるか
・指導している薬剤師の人数はどうなのか
・さらにその期間で「かかりつけ」の新規がどれくらいとれているか
・新規をとれている薬剤師は誰か
という数値が取れていれば、
「うまく出来ている薬剤師は、どんな取り組みをしているか」
を確認し、その取組みが良ければ「ノーハウとして薬局内に横展開」する。
分析を取り入れる前は、そもそも気付くことすら出来なかったことがわかり、
分析結果を人事評価に反映することができ、薬局全体の業務改善につなげることができます。
システムは入れたら終わりではなく、システムを入れてからがスタートです。
他社との違いは、レセコン・電子薬歴・在庫 全てが「クラウド」で揃うこと
MAPs for PHARMACY DXと他社製品との違いを教えてください。
これからのシステムはクラウドである理由とは?
コスト(初期・運用)
Amazon Google Microsoft など世界的にクラウド(自前でサーバー機を持たないこと)がスタンダードになっています。
サーバー機費用も5年前に比べると1.5倍~2倍位になっているのではないかと思います。
また、サーバー機を1店舗で導入しても処理能力を持て余してしまう。それがクラウドになると複数店舗で共用できる分、割安で使えますし、サーバーOSの更新による入替も発生しません。
サイバーセキュリティとBCPでの「クラウドの利点」は?
2023年4月1日、医療法施行規則改正により医療機関等へのサイバーセキュリティが義務化されました。
サイバーセキュリティの脅威 第1位はランサムウェアによる被害
昨年、「つるぎ町立半田病院」や「大阪急性期総合医療センター」でもランサムウェアによる重大事故がありました。ニュースにはなっていませんが、調剤薬局の被害も裏サイトで流出しているようです。
病院で被害を受けたのは、境界型と呼ばれる「従来のセキュリティモデル」。インターネットは信用できないから、院内はファイヤーウォールで隔離しておく。その壁はしっかりしているが、壁の内側はしっかりとしたセキュリティ対策がされていないので、一旦侵入を受けるともろかったというものです。
これからの時代は、「ゼロトラスト」=社内外すべて信用できない、という管理が必要になります。
また、厚生労働省は5月31日に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」を公表しました。
ガイドラインでも、医療情報システムを「医療機関内に保有している場合(いわゆるオンプレ型)」と「医療機関内に保有しない場合(いわゆるクラウド型)」に大きく分けています。
クラウド型の場合、医療機関・薬局は^サーバーの管理を事業者に任せられる。
リスク管理でいうと、リスクを外部に委託するような形になり、薬局で対応すべきことが少なくなるので、現場での管理負担を減らすことができます。
日本政府も「クラウド・バイ・デフォルト原則」(政府情報システムを選定する時の基本方針として、クラウドを第一候補とする)を2021年に出しています。ここに記された考え方は、民間企業のクラウド選定でも有効です。
この資料内で指摘されている「クラウド5つのメリット」は、官民を問わずクラウド・バイ・」デフォルトへ舵を切る動機になるでしょうし、これからの医療情報システムはクラウド化が必須だと思っています。
調剤システムの開発者としてのやりがいは?
EMシステムズ自体が、調剤薬局のシステム事業者として一番シェアが大きいですし、実際にEMシステムズとグッドサイクルシステムのユーザーを合わせると、現在でも全国の薬局の1/3を超えるユーザーがいることになります。ユーザー薬局が患者さんとより良く接し、地域医療に貢献している。その薬物治療システムを支えているということに関しては、とてもやりがいのあることだと思っています。
入替無しで継続的なシステムを提供し、更なる薬局の繁栄へ
私も会社を経営していて、「システムの入替は、すごく面倒くさい」と思います。基幹となるものが変わると、スタッフに教えないといけないし、入替にかかる手間は沢山ある。
これまでの薬局システムは、OSがかわる等で買替を促したり、安く導入したが適切にバージョンアップされなかったり、統合などでシステム事業者の数自体も減り、入替を余儀なくされることもありました。
MAPs for PHARMACY DXでは、クラウドで提供するもう一つの意味として「入替なしで継続的なシステムを提供していくこと」があります。継続して使えるからこそ、1つの課題を解決したら、また次にステップアップできる。10年後、20年後に「あの時にMAPs for PHARMACY DXを選んで良かった」と薬局経営者の方に思ってもらえることが、我々が目指すところです。
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