同行訪問が「当たり前」から「選択肢の一つ」へ
中医協が公表した調査データは、薬剤師と医師の連携における現状を浮き彫りにしている。訪問薬剤管理指導において、薬剤師が医師の訪問に同行するケースは全体のわずか9.1%。一方で、同行した薬剤師の74.3%が「患者の服薬状況に合わせた処方提案」を実施し、85.4%が「服薬状況の確認と残薬整理」を行っているという結果が示された。
医療機関側の調査でも、薬剤師との連携時に86.9%の医師が「服薬状況の確認と残薬整理」を期待し、69.0%が「処方提案」を求めていることが明らかになった。つまり、同行訪問は少数派ながら、実施時の臨床的価値は極めて高いということだ。
しかし、薬剤師と医師のスケジュール調整、移動時間、地理的制約など、対面同行にはハードルも多い。ここにICTが介入する余地がある。
<改定案>ICT連携による処方提案を新たに評価──20点の加算新設
今回の改定案で最も注目すべきは、「在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料」における評価の見直しだ。
改定のポイント
【現行制度】
残薬調整に係るもの以外:40点
残薬調整に係るもの:30点
【改定後】
処方箋に基づき処方医に処方内容を照会し、処方内容が変更された場合
残薬調整に係るもの以外:40点
残薬調整に係るもの:20点
患者へ処方箋を交付する前に処方医と処方内容を相談し、処方に係る提案が反映された処方箋を受け付けた場合(新設)
残薬調整に係るもの以外:40点
残薬調整に係るもの:20点
新設される2番目の算定要件が鍵だ。これは、ICTを活用した服薬情報の共有や、オンラインでの処方提案・調整を想定したものである。薬剤師は処方箋発行前に医師とコミュニケーションを取り、薬学的見地から処方変更を提案。それが反映された処方箋を受け付けた場合に算定できる。
「対面同行」から「デジタル協働」への転換
この改定の背景には、薬剤師の専門性をより効率的かつ広範に活用したいという政策意図がある。
薬局・薬剤師にとってのメリット
1.時間効率の向上
医師との同行訪問は貴重だが、時間的・物理的制約が大きい。ICTを使えば、移動時間なしに複数の医師と連携可能になる。
2.処方提案の質的向上
電子カルテ、お薬手帳アプリ、服薬管理システムなどと連動することで、リアルタイムに患者情報を共有し、より精度の高い提案ができる。
3.算定機会の拡大
対面同行が難しかったケースでも、ICTを介した提案なら実施可能。結果として、薬剤師業務の評価機会が増える。
医師にとってのメリット
医師側も、薬剤師からの処方提案を効率的に受け取れる。特に在宅医療では多職種連携が不可欠だが、時間調整の負担が軽減されれば、より多くの患者に質の高い医療を提供できる。
算定要件で求められる「プロセスの可視化」
新設される算定要件では、以下が明記されている。
「処方箋の交付前に行った処方医への処方提案の内容(具体的な処方変更の内容、提案に至るまでに検討した薬学的見地から検討した内容及び理由等)の要点及び実施日時を薬剤服用歴等に記載する必要がある」
つまり、ICTを使った連携であっても、そのプロセスをしっかり記録し、薬学的根拠を示すことが求められる。これは薬剤師にとって「丁寧な仕事の可視化」が評価される仕組みでもある。
電子薬歴やクラウド型の服薬管理システムを活用し、以下を記録することが重要だ。
・提案日時
・提案内容(薬剤変更、用量調整、剤形変更など)
・薬学的根拠(相互作用、副作用リスク、服薬アドヒアランス向上など)
・医師の反応と最終的な処方内容
薬局DXが「評価される時代」へ
今回の改定案は、薬局DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する追い風となる。すでに一部の薬局では、以下のようなICTツールが導入されている。
・オンライン服薬指導システム
・医師・薬剤師間の連携プラットフォーム(例:MediLine Workplaceなど)
・電子お薬手帳と服薬管理アプリの連動
・AIによる処方チェック・提案支援ツール
これらのツールを活用し、医師との連携を「記録可能な形」で実施することが、今後の薬局経営における競争力の源泉となる。
薬剤師の「提案力」が問われる時代
中医協の今回の提案は、薬剤師が単なる「調剤者」から「処方最適化のパートナー」へと進化することを促すものだ。
重要なのは以下の3点
・ICTツールの導入・活用を進める。
・対面同行が難しい環境でも、デジタルで医師と連携できる体制を整える。
・薬学的根拠に基づく提案力を磨く。
・評価されるのは「提案したこと」ではなく、「薬学的に妥当な提案をし、それが処方に反映されたこと」だ。
・記録・可視化を徹底する。
・薬歴への丁寧な記載が、算定要件を満たすだけでなく、薬剤師の専門性を証明する証拠となる。
在宅医療の現場で、薬剤師の役割はますます重要になっている。ICTを武器に、医師との協働を深化させ、患者の服薬アウトカム向上に貢献する――そんな薬局・薬剤師が、これからの時代に求められている。
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