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薬局DXニュース解説

2025.07.10

レカネマブ薬価見直し論争―日本人での効果に疑問符、費用対効果評価で15%引き下げへ

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年間298万円の高額薬剤、中医協が費用対効果「不良」と判定。エーザイは評価手法に異議を唱える中、日本人での治験結果は6.8%の効果にとどまる

厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)が9日に示したアルツハイマー病治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)の費用対効果評価結果が、医療界に大きな波紋を広げている。年間約298万円という高額な薬価に対し、専門組織は「費用対効果が悪い」との評価を下し、最大15%の薬価引き下げが検討されることとなった。

革新的薬剤の影に潜む効果の不確実性
レカネマブは、患者の脳内に蓄積するアミロイドβタンパク質を直接除去する作用機序を持つ画期的な薬剤として注目されてきた。しかし、日本人を対象とした第三相試験の結果を詳細に検証すると、CDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes)で測定される認知機能低下抑制作用は僅か6.8%にとどまっている。これは他の人種を含む全体の成績27%と比較すると、著しく低い数値である。
この数値は、エーザイの医療従事者向けQ&Aサイトや医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査書でも確認できる公開情報であり、日本人における薬剤効果の不確実性を示唆している。軽度認知障害から軽度認知症を対象とする薬剤として、この効果の程度が臨床的に意義のある水準に達しているかは、医療現場での慎重な検討が必要であろう。

企業側の反論と評価手法の相違
エーザイは9日、費用対効果評価結果に対して強い反論を展開した。同社は「企業分析と公的分析の間では根幹となる分析モデルの構造が異なる」と指摘し、特に以下の点で評価手法の違いを強調している。
企業側の分析では、18カ月を超える長期投与の影響や、患者の病態進行段階での介護者のQOL(生活の質)を評価に組み込んでいる。一方、公的分析では投与期間を18カ月までに限定し、介護費用の評価も症状が軽い患者のみを対象としている点で手法が異なる。
エーザイ担当者は「長期有効性が過小に評価されている」と主張し、「今回の評価は価格への評価であり、薬の有効性や効能効果の評価に影響を与えるものではない」とコメントしている。

高額薬剤と医療保険財政への影響
レカネマブの薬価は1瓶(500mg)あたり11万4443円で設定されており、体重50kgの患者では年間約298万円の薬剤費が発生する。患者の自己負担は年齢や所得に応じて1~3割となり、高額療養費制度の対象にもなるが、医療保険財政への影響は深刻である。
高齢化の進展により認知症患者の急増が見込まれる中、このような高額薬剤の保険適用は制度の持続可能性に重要な課題を提起している。費用対効果を検証して薬価を見直すルールは、まさにこうした状況に対応するためのものであり、今回の評価結果はその制度が適切に機能していることを示している。

医療現場への示唆
今回の薬価見直し論争は、薬剤師にとって重要な示唆を含んでいる。革新的な作用機序を持つ薬剤であっても、実際の臨床効果と費用対効果の両面から慎重な評価が必要である。特に日本人での治験結果が限定的である点は、処方を検討する際の重要な判断材料となる。
また、患者や家族への説明においても、薬剤の効果の程度を正確に伝え、期待値の適切な設定が求められる。年間300万円近い費用に対して6.8%の効果をどう評価するかは、医療経済学的観点からも医療倫理的観点からも重要な課題である。
今後、中医協での具体的な薬価設定に関する議論が注目される。最大15%の引き下げが実施された場合でも、依然として高額な薬剤であることに変わりはなく、適切な患者選択と治療効果の慎重な評価が医療現場に求められることとなろう。
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