50代からの介護経験が生きる政策判断
高市氏の発言には、統計や数字だけでは語れない重みがある。それは、高市氏自身が50代から一般人同用に介護の現場で苦労してきた経験に裏打ちされているからだ。そして総裁選挙期間中、診療報酬の引き上げを明言したのは高市氏だけだった。この姿勢は、制度の隙間で疲弊する医療・介護従事者の現実を、身をもって理解しているからこそ生まれたものだろう。
介護を経験した者なら誰でも知っている。薬局は単なる「薬を渡す場所」ではない。在宅医療の要として、服薬指導、残薬管理、副作用モニタリング、多職種連携のハブ機能を担っている。しかし、その貢献に見合う評価が診療報酬に反映されているとは言い難い。高市氏の「待っていられない」という危機感は、こうした現場の声と呼応している。
薬局・薬剤師が直面する三重苦
薬局経営は今、三つの危機に同時に直面している。
第一に、診療報酬の実質的な削減である。物価高騰、人件費上昇、光熱費増大の中で、報酬改定は追いついていない。調剤技術料の据え置きや薬剤服用歴管理指導料の算定要件厳格化により、実質的な減収に陥っている薬局は少なくない。
第二に、薬価の過度な引き下げだ。ネット上でも指摘されているように、「薬価を下げすぎて企業が日本への製薬事業から撤退」する事態が現実化している。後発品メーカーの撤退、供給不安定化、品薄医薬品の増加は、薬局の現場に直接的な打撃を与えている。薬剤師は在庫管理、代替薬提案、患者説明に膨大な時間を費やしているが、この業務に対する報酬は存在しない。
第三に、人材確保の困難さである。「診療報酬を上げても給料に反映されない」というネット上の声は、薬局業界にも当てはまる。大手チェーンが報酬増を内部留保に回し、現場の薬剤師に還元しない構造が続けば、人材流出は加速する。
補正予算支援で薬局は何を期待できるか
高市新総裁が表明した補正予算による支援は、薬局にとってどのような意味を持つだろうか。
まず期待されるのは、運転資金の補填である。薬価差益の縮小と後発品供給不安により、薬局の資金繰りは逼迫している。在庫確保のための追加仕入れ、緊急配送コスト、代替薬探索のための時間外労働――これらのコストを吸収する体力は、中小薬局にはもはやない。
次に、DX投資への支援だ。電子処方箋、オンライン服薬指導、PHR連携といったデジタル化は不可避だが、初期投資の重さが中小薬局の足かせになっている。補正予算がこの分野に向けられれば、薬局の生産性向上と患者サービス向上の両立が可能になる。
そして最も重要なのは、人件費への直接支援である。「給料にしっかり反映される形」を担保する仕組みが必要だという声は正鵠を射ている。介護報酬改定における処遇改善加算のような、使途を限定した加算制度が診療報酬にも導入されるべきだろう。
薬剤師の専門性評価が問われる局面
高市新総裁の方針が実現に向かう中で、薬局・薬剤師に求められるのは「待ちの姿勢」ではなく、専門性の可視化だ。
在宅医療における薬剤師の介入が、入院回避や重複投薬解消につながったエビデンスを蓄積し、発信する必要がある。ポリファーマシー対策、フレイル予防、認知症患者への服薬支援――これらの業務が医療経済にどれだけ貢献しているかを、データで示さなければならない。
介護現場を知る総裁だからこそ、薬剤師の役割を理解してもらえる可能性は高い。しかし、それを制度に反映させるには、現場からのエビデンスと声が不可欠だ。
医療提供体制の再設計が始まる
高市新総裁の「特に地域の医療機関が倒産していくと大変なことになる」という発言は、地域医療の崩壊が現実的な脅威になっていることを示している。そして地域医療の崩壊は、薬局の存続基盤そのものを揺るがす。
処方箋枚数の減少、門前病院の縮小・閉鎖、在宅患者の減少――これらは薬局経営に直結する問題だ。補正予算と診療報酬改定が、医療機関と薬局の両方を支える内容になるかどうか、今後数カ月の動向が極めて重要である。
介護経験が生む政策の厚み
高市新総裁の医療政策が他の候補者と一線を画すのは、50代からの介護経験という「当事者性」が背景にあるからだ。制度の不備、現場の疲弊、家族の苦悩――これらを数字ではなく実感として知っている政治家による政策は、現場の実態に即したものになる可能性がある。
薬局・薬剤師は今、この政策転換の波をどう捉え、どう動くかが問われている。補正予算の使途、診療報酬改定の方向性、薬価制度の見直し――すべてが連動して動き始める。介護現場を知る総裁のもとで、医療・介護の一体的な改革が進むことを期待したい。そして薬局は、その改革の受け手ではなく、担い手として存在感を示すべき時を迎えている。
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