アルツハイマー病を予防する新時代へ − イーライ・リリーが描く革新的治療戦略
米イーライ・リリーが開発した新規アルツハイマー病治療薬「ケサンラ」が日本で承認される中、同社の最高科学責任者であるダニエル・スコブロンスキー氏は、症状が出る前の段階での治療が病気の半数を予防できる可能性を示唆。血液検査による早期診断と先制医療の実現に向けて、従来の治療概念を根本から覆す研究成果に注目が集まっている。
米イーライ・リリーのダニエル・スコブロンスキー氏による最新のアルツハイマー病治療戦略は、従来の治療概念を大きく転換する可能性を秘めている。同社が開発した早期アルツハイマー病治療薬「ケサンラ」(ドナネマブ)は、2024年9月に日本で承認され、アルツハイマー病への新たなアプローチを示唆している。
スコブロンスキー氏は、現在進行中のプレクリニカル期(症状が出る前の段階)を対象とした臨床試験に大きな可能性を見出している。特に注目すべきは、「アルツハイマー病の半分ぐらいは症状が出る前に治療できるのではないか」という展望だ。この見解は、単なる希望的観測ではなく、科学的な根拠に基づいている。
血液検査によるpTau217の検出を活用することで、早期段階での正確な診断が可能となる。さらに興味深いのは、症状が出る前の段階で治療を開始することで、アミロイド関連画像異常(ARIA)といった副作用のリスクが劇的に低下する点である。理論的には、脳組織への侵襲性が最小限に抑えられるため、脳出血関連の副作用も大幅に減少すると考えられる。
pTau217(リン酸化タウ蛋白質217)とは?
アルツハイマー病の早期診断に革新的な可能性を持つバイオマーカーです。
具体的には、脳内のタウ蛋白質が異常にリン酸化された状態を示す特定のタンパク質マーカーで、アルツハイマー病の発症前や初期段階を検出する血液検査の重要な指標となります。通常のタウ蛋白質と異なり、リン酸化されたpTau217は、神経変性の初期段階を反映する重要な分子マーカーとして注目されています。
pTau217は従来のアミロイドPETスキャンと同等の診断精度を持ちながら、より簡便で侵襲性の低い血液検査で検出できるという大きな利点があります。年齢や家族歴によって陽性率は変動しますが、60〜70歳代になるにつれて陽性率が上昇する傾向があります。
この分子マーカーの発見は、アルツハイマー病の早期診断と予防医療の実現において、まさにブレークスルーとなる可能性を秘めています。
この新しいアプローチは、高齢化社会における医療パラダイムを根本から変える可能性を秘めている。単に病気を治療するだけでなく、発症そのものを予防するという革新的な戦略は、医学的にも社会経済的にも大きなインパクトを持つ。スコブロンスキー氏は、この治療法が「高齢化の意味を変え、年を重ねてもより人生を楽しむことができる」と力説する。
2025年から2026年には、プレクリニカル期を対象とした第3相臨床試験の結果が明らかになる予定だ。この結果次第では、アルツハイマー病に対する予防医療の概念が大きく変革される可能性がある。早期診断と早期治療の組み合わせが、未来の認知症医療における最も有望なアプローチとして浮上しつつある。
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