日本では長年、医師免許を利用した科学的根拠に乏しい医療ビジネスが野放し状態だった。最近では、「医師免許さえあれば経験不問、専門医資格不要のがん免疫療法クリニック求人。当直なし。週4-5回の勤務で年収2000-2500万円」といった求人広告も散見されるようになった。
こうした状況について、提訴後の記者会見で宮城弁護士は「客観的エビデンスが存在しない、不十分な治療がかなり高額な価格で提供されている実情がある。単なる財産的被害にとどまらず、生命や健康に直結する問題なので重大だ」と指摘。さらに「本来は厚生労働省や消費者庁、都道府県が監督・規制すべき問題と考えられるが、自由診療についてはなぜか行政の規制が非常に甘い」と述べ、行政の対応の遅れを批判した。
一方で、最近では過剰な病床数や地域偏在の解消を目的とした都市部での新規開業抑制に向けた動きも出てきている。臨床研修を終えたばかりの若手医師が、保険診療よりも自由診療(美容医療など)に従事する傾向が強まっており、こうした流れに歯止めをかけるための抑制策としての側面もある。
しかし、こうした規制は主に保険診療を対象としており、自由診療については依然として規制の網から漏れている状況だ。今回の訴訟を契機に、自由診療における医療広告の在り方や、科学的根拠に基づかない治療法の規制についても議論が活発化することが期待される。
医療の質と安全性を確保し、患者の利益を守るためには、行政による適切な監督と規制が不可欠だ。今後、自由診療を含めた医療全般に対する包括的な規制の枠組みづくりが急務となっている。
医師という職業が社会から高い信頼と権限を与えられているのは、長い歴史の中で多くの先達が人々の健康と生命を守るために献身的な努力を重ねてきた結果である。しかし、近年の一部の医師による科学的根拠に乏しい高額な自由診療の横行は、この信頼を揺るがしかねない深刻な問題だ。
こうした状況下で、すべての医療従事者、特に自由診療を提供する医師たちに、医療の原点であるヒポクラテスの誓いを今一度、心に刻んでほしい。
私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
この誓いの言葉には、患者の利益を最優先し、科学的に有効性が確認されていない治療法を安易に提供しないという、医療従事者としての基本的な倫理観が込められている。
金銭的利益や自己の名声のためではなく、真に患者の健康と福祉のために尽くす ― それこそが医師に与えられた特権の本質であり、社会からの信頼の基盤なのである。
エビデンスに基づく医療の実践と、患者の利益を最優先する姿勢を堅持することで、医療界全体の信頼回復と、真に患者のためになる医療の提供が可能となるだろう。行政による適切な規制とともに、医療従事者一人ひとりの倫理観の向上が、今、強く求められている。
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