医療用医薬品の零売を行う薬局が国を相手取り、厚生労働省による通知の無効確認と損害賠償を求める訴訟を起こしました。本訴訟では、通知が零売を事実上規制しているものの、その法的根拠が不明確である点が争点とされています。零売は、医師の処方箋が不要な医薬品を小分け販売する行為で、古くから存在する薬局の形態の一つです。しかし、平成17年の薬機法改正以降、厚労省の局長通知がその実施を大幅に制限してきました。
零売規制の背景
零売は、かつてドラッグストアなどで一般的に行われ、医療用と一般用の区別が曖昧な時代には安価で購入できる医薬品の供給源として重宝されていました。しかし、法改正を経て医療用医薬品の取り扱いが厳格化され、零売の存続に暗雲が立ち込めます。特に令和4年の通知では広告に関する規制が強化され、零売薬局は「グレーゾーン」と見なされることが増えました。
訴訟の争点
今回の訴訟では以下の点が争点となっています。
①通知が行政訴訟として無効確認の対象となるか。
②通知により生じた経済的損害が因果関係として認められるか。
③通知内容が公共の福祉と経済的自由権のバランスを鑑みて妥当かどうか。
訴訟の中心となる通知は法令ではなく、行政の指針として出されたものです。通知は本来、法律の運用方針を示すためのものであり、直接的な規制や罰則を課す力を持たないとされています。しかし、零売薬局にとってはその影響が甚大であり、営業機会の損失や社会的信用の低下を招く結果となりました。
経済的自由と憲法の視点
日本国憲法第22条は「公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由」を保障しています。この自由は経済的自由を含み、職業選択の妨げとなる行為は憲法違反の可能性があります。本訴訟は、通知がこの憲法上の自由を侵害しているかを問う形でも注目されています。過去には薬局の距離制限訴訟や一般用医薬品のネット販売訴訟が類似の議論を呼びましたが、今回の事例も同様に司法判断が焦点となります。
零売を巡る法的課題は、公共の福祉と経済的自由のバランスをいかにとるべきかという根本的な問いを含んでいます。本訴訟がどのような結論を迎えるかは、医薬品業界の今後を大きく左右するでしょう。裁判の進展とともに、零売という業態の将来が明らかになることを期待しています。
日本薬剤師会のコメント
日本薬剤師会の岩月進会長は、定例会見の中で、いわゆる零売に関する訴訟について「法律に記載されていない通知に基づく行政対応への訴訟であり、判断は裁判に委ねるべき」と述べた。また、「訴訟が提起されたこと自体に対する否定的な感想は持っていない」としつつも、「零売に関する日薬の見解は訴訟の有無にかかわらず変わらない」との立場を明確にした。
通知の趣旨については、「目の前で困っている患者への対応を明文化したものである」と説明し、繰り返し大量販売する事例は「通知の趣旨から逸脱している」とも指摘した。訴訟の背景や詳細については「分からない部分が多い」とし、これ以上の具体的なコメントは控えると述べた。
https://www.dgs-on-line.com/articles/2862
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