政府が2025年度に予定している約2500億円規模の薬価引き下げ方針について、医療専門家や製薬業界から深刻な懸念の声が上がっている。この政策は短期的な医療費抑制効果は期待できるものの、日本の医療システムと創薬イノベーションに致命的な打撃を与える可能性があると指摘されている。
特に懸念されるのは、この政策が日本の創薬能力に与える長期的な影響である。年間2500億円規模の収益減少は、製薬企業の研究開発投資意欲を著しく制限することになる。また、ジェネリック医薬品のように海外から原薬の輸入に頼っている医薬品は輸入コスト増加に耐えられず、利益率の低い安価な医薬品類から撤退することが加速すると見られ、数兆円規模の製薬インフラストラクチャーの崩壊につながりかねず、一度失われた研究開発能力の回復には膨大な時間と投資が必要となる。
さらに、薬価の過度な引き下げは、医薬品の安定供給にも重大な影響を及ぼす。現在でも顕在化している医薬品の供給不足問題は、2025年以降さらに深刻化する可能性が高い。製薬産業は国家の重要インフラストラクチャーとして位置づけられるべきであり、単なるコスト削減の対象として扱うべきではない。
医療経済の専門家からは、この政策が「財政健全化」の名の下に、実質的な医療アクセスの制限につながるとの指摘もある。物価上昇が続く中での社会保障費の抑制は、結果として国民の健康維持に必要な医療サービスの質の低下を招く危険性がある。
また、市場原理を無視した薬価への政策的介入は、製薬企業の経営を圧迫し、新薬開発の停滞や既存薬の供給不安定化を引き起こす。これは結果として、適切な治療機会の損失につながり、救えるはずの命が救えなくなる事態を招きかねない。
厚労省や財務省には、短期的な財政削減効果のみならず、日本の医療システムの持続可能性と医療イノベーションの維持という観点から、薬価政策の再考が求められている。
comments