新設・定員増不可、コアカリ改訂…薬学部は変われるか
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/eye/202302/578357.html
そもそも本件のベースには、ずっと唱えられてきた厚労省による薬剤師需給調査に基づいた「薬剤師供給過多問題」が横たわっていると思うのです。
私が認識しているだけで、2008年・2019年・2021年と調査する因子数を増やして精度を高めながら、幾度となく需給予測は行われてきていて、その度、結果としては「薬剤師供給過多」とされてきました(ワニの口の開きは、少しずつ右にズレているものの)。
先に断っておきますが、私個人は薬学部の新設に対して特段のスタンスは持ち合わせていません。国全体がスケールダウン傾向にあるなかで、いつまでも量を追い求めるものでもないだろうことは、常識の範囲内で感じてはいますが。
それでも実際に「薬剤師供給過多」に陥るか?といえば、それはNHKのドラマじゃないですが「半分、間違い」だと信じています。その根拠は、先に挙げられていた需給調査では全く触れられていない重大な「因子」が隠れているからです。
それはSDM(Shared Decision Making)。*
世界最速の超高齢社会である日本は、薬物治療主体で複数の治療選択肢を持っている高齢者大国まっしぐらであって、そこで必要な医療は患者の価値観をじっくり長きに渡ってヒアリングし、寄り添って一緒に治療方法を選択していくSDMなのです。
さらに2024年からは医師の働き方改革。
ここで大活躍すべき医療プレイヤーは自ずと「薬剤師」になるわけです。でも、実際にSDMを行うには想像以上の時間を必要とします。なにせ、徐々に身体機能をフレイルさせつつある高齢患者さんと、じっくり間違いないようなコミュニケーションするわけですから。
ここにちゃんと行政も医療関係者も、政治家もメディアももちろん国民もフォーカスするなら、薬剤師さんにその持てるバリューを発揮してもらうしかない。
上記の記事中、ある大学教員と思われる方のセリフがありました。「コアカリ改訂でこんなに内容を盛り込んで、薬学生が消化し切れるかどうか?」という主旨の不安です。でも、恐らく改訂コアカリを策定された方々は、先述のような近未来(いや、既に今かな)の社会の実際をイメージされているのだと思います(聞いていませんが)。
だとすると、薬学部の新設・定員増不可とコアカリ改訂の内容は、正しい方向性だと言えましょう。これから社会に供給されるべき薬剤師は数も去ることながら、SDM的なアプローチをこれまで以上に医療の一線で担って頂くことが求められるからです。
でも「量」の不足はどうするのか?
そこは、薬剤師業務のDX・ロボット化・薬剤師以外職員へのタスクシフト。これらの武器の最適MIXを個々の職場で追及していくのが筋だと考えています。
*「Shared Decision Making」とはなにか(中山健夫)
https://medicalnote.jp/contents/151009-000015-RBQJLT
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