消防庁が昨年実施した実証事業では、67消防本部660隊が約2か月間で11,398件の情報閲覧を行い、救急現場での医療情報確認の有効性が実証された。特に注目すべき成果として、帰省中でお薬手帳を持参していなかった患者や、高齢の夫婦のみで医療情報の把握が困難なケースにおいて、マイナ保険証を通じて正確な情報把握が可能となり、適切な搬送先の選定につながった事例が報告されている。
実証事業の結果からは、特に高齢者の利用が62.6%と最も多く、発生場所は住宅が74.4%、外出先が20.7%となっている。さらに、意識不明や意思疎通が困難なケースでも839件の情報閲覧が行われ、その有用性が確認された。
マイナ救急の現場から
■外出先での意識障害を救った迅速な処置
60代の男性が外出先でふらつき、立ち上がれなくなった事例。意識がはっきりせず会話ができない状態でしたが、マイナ保険証から糖尿病の既往歴が判明。救急隊が速やかにブドウ糖を投与し、病院到着時には会話可能な状態まで回復しました。
■高齢夫婦の救急現場を支えた医療情報
90代の男性がうつ伏せで動けなくなり、妻が救急要請。妻も夫の病歴や服用中の薬を把握していない状況でしたが、自宅にあったマイナ保険証から通院履歴や薬剤情報を確認。適切な搬送先の選定につながりました。
■帰省先での緊急事態をスムーズに対応
50代の女性が帰省先で食事中に意識を失い転倒。精神疾患で服薬中でしたが、お薬手帳を持参していませんでした。マイナ保険証から薬剤情報を確認できたことで、円滑な搬送先の選定が可能になりました。
■自転車事故での迅速な医療機関選定
50代の男性の自転車転倒事故。隊長が傷病者の観察をする傍ら、別の隊員がマイナ救急で既往歴を確認。既往歴がないことが即座に判明し、不要な問診を省略して速やかな搬送につながりました。
搬送先の医療機関からは、「傷病者の基本情報確認の時間短縮により、診療に集中できる」「重複処方の回避に役立つ」といった肯定的な評価が寄せられている。また、救急隊員からも「高齢者世帯での情報収集が容易になった」「外出先での事故でも薬剤情報が確認できた」などの声が報告されている。
2024年度の実証事業は、昨年から継続する660隊に加え、新たに4,674隊が参加予定。継続隊は2024年4月以降、準備が整った消防本部から順次開始し、新規参加隊の開始時期は4月中に発表される予定だ。
消防庁では今後、政府広報やポスター、広報誌等を通じて、マイナ保険証の携行を呼びかけるとともに、国と自治体が連携した広報活動を展開していく方針を示している。この取り組みにより、救急医療における情報共有の迅速化と、より適切な救急搬送の実現が期待される。
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