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薬局DXニュース解説

2025.12.03

令和7年度補正予算案で描く薬局DXの未来像――電子処方箋とAI、マイナ保険証がもたらす薬局業務の大転換

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政府が打ち出した令和7年度補正予算案には、医療DXを加速させる大規模な投資が盛り込まれた。電子処方箋の機能拡充、マイナ保険証の利用促進、そして薬剤師を活用した市販薬の濫用防止対策など、薬局業務のあり方を根本から変える施策が目白押しだ。総額5兆円を超える予算の中から、薬局・薬剤師が知っておくべき重要施策を読み解く。

電子処方箋が本格始動――利活用促進に91億円
今回の補正予算案で最も注目すべきは、電子処方箋関連施策への手厚い予算配分だ。利活用促進事業に3.3億円、環境整備事業に6.4億円、機能拡充促進事業に2.9億円と、合計12.6億円が計上されている。
特筆すべきは、医療機関・薬局における新機能導入への補助制度だ。電子処方箋管理サービスの院内処方機能の導入費用が補助対象となり、支払基金を通じた補助金交付が実現する。これにより、導入コストがネックとなっていた中小規模の薬局でも、電子処方箋への移行が現実的な選択肢となる。
さらに、直近の薬剤情報を活用した機能拡充により、重複投薬や相互作用のチェック精度が飛躍的に向上する見込みだ。医薬品マスタの整備も進められ、安全性と効率性を両立した運用体制が整いつつある。

マイナ保険証対応で薬局業務はどう変わるか
マイナ保険証の利用促進に向けた支援等に224億円という大規模予算が投じられる。これは単なる資格確認のデジタル化にとどまらない。薬局にとっては、患者の服薬歴や健康情報へのアクセスが格段に容易になることを意味する。
新規格の顔認証付きカードリーダーの導入費用補助や、システム改修費用の支援により、設備投資の負担が大幅に軽減される。薬局薬剤師は、マイナポータルを通じて患者の過去の処方歴や検査データを参照しながら、より質の高い服薬指導が可能になる。

公費負担医療のオンライン資格確認――薬局の事務負担を削減
公費負担医療制度等のオンライン資格確認推進に46億円が配分され、令和8年度中の全国規模導入が目指されている。これまで紙ベースで煩雑だった公費負担医療や地方単独医療費助成の資格確認が、マイナンバーカード一つで完結する。
薬局にとっては、レセプトコンピュータの改修費用が補助される点が重要だ。病院では最大28.3万円、診療所・薬局では最大5.4万円(大型チェーン薬局以外は3/4補助)の支援が受けられる。事務処理の効率化により、薬剤師は本来の専門業務により多くの時間を割けるようになる。
医療扶助のオンライン資格確認導入にも22億円が計上され、生活保護受給者への医薬品提供もデジタル化が進む。医療券発行事務の効率化は、薬局側の負担軽減にも直結する施策だ。

薬剤師の新たな役割――市販薬濫用防止の最前線へ
近年、若年層を中心とした市販薬のオーバードーズが社会問題化する中、薬剤師の役割が再定義されつつある。薬剤師等を活用した市販薬濫用防止対策に22百万円が配分され、ゲートキーパーとしての機能強化が図られる。
具体的には、販売時における啓発活動の事例収集と周知、学校薬剤師による学校での啓発、そして薬剤師・登録販売者を対象とした対応力向上研修の実施が盛り込まれている。令和5年度に作成された「ゲートキーパーとしての薬剤師等の対応マニュアル」を活用し、実践的なスキル習得が推進される。
これは薬剤師の社会的責任を明確化するものであり、単なる販売業務を超えた専門職としての価値を示す機会となる。

診療報酬改定DXで変わる調剤報酬請求
診療報酬改定DXの取り組みに42億円が投じられ、共通算定モジュールの本格運用が令和8年6月に開始される予定だ。これにより、診療報酬改定のたびに医療機関や薬局が個別にシステム改修に追われる状況が改善される。
薬局にとっては、調剤報酬請求業務の負担が大幅に軽減されることが期待される。請求支援機能の追加も計画されており、令和10年7月の本格運用を目指している。標準化されたモジュールの活用により、ベンダーロックインの問題も解消に向かう。

全国医療情報プラットフォームの構築――薬局も情報共有の一翼を
全国医療情報プラットフォーム開発事業に74億円が配分され、電子カルテ情報共有サービスが本格化する。薬局も医療機関や他の薬局との間で、電子カルテ情報を共有・交換できる仕組みが整備される。
オンライン資格確認等システムのネットワークを活用することで、救急時医療情報閲覧機能も強化される。意識不明の患者に対しても、過去の処方歴やアレルギー情報を即座に参照できる体制が構築されつつあり、薬局薬剤師の判断を支援する重要なインフラとなる。

医薬品安定供給への取り組み――薬局経営の安定化にも寄与
後発医薬品製造基盤整備基金に844億円、医薬品卸業者への継続的な安定供給支援に63億円が計上された。品目統合や事業再編を支援することで、後発医薬品の供給不安定問題の解決を図る。
薬局にとっては、医薬品の安定調達が経営の根幹に関わる。バイオ後続品の国内生産体制整備に79億円、抗菌薬等の備蓄体制整備に16億円が配分されるなど、サプライチェーン全体の強靱化が進められている。
医薬品卸業者への支援により、流通の効率化と安定供給の両立が目指される。これは薬局が患者に適切な医薬品を提供し続けるための基盤整備といえる。

介護・医療連携におけるICT活用――薬局の役割拡大
介護関連データ利活用に係る基盤構築事業に125億円、介護保険制度運用に必要なシステム整備に94億円が投じられる。介護情報基盤を通じた情報共有により、薬局も在宅医療・介護連携の重要なハブとなる。
ケアプランデータ連携システムの活用が地域で促進されることで、薬局は介護事業所との情報共有がスムーズになる。在宅患者への訪問服薬指導において、介護スタッフとのリアルタイムな情報交換が可能になり、多職種連携の質が向上する。

AI・生成AIの薬局業務への応用可能性
医療機関におけるサイバーセキュリティ対策強化に15億円が計上される中、DX推進の土台となるセキュリティ基盤の整備が進む。これは薬局がクラウドサービスやAIツールを安心して活用できる環境づくりにつながる。
寄り添い型相談支援緊急強化事業では、傾聴相談に対応可能な生成AIを活用した電話・チャット相談の導入が試みられている。この技術は将来的に、薬局での初回相談や服薬指導の補助ツールとして応用できる可能性を秘めている。

医療DX推進における薬局の位置づけ
今回の補正予算案は、医療DX推進において薬局を重要なプレーヤーとして明確に位置づけている。電子処方箋、マイナ保険証、オンライン資格確認、全国医療情報プラットフォーム――これらすべてのシステムにおいて、薬局は単なる利用者ではなく、医療情報流通の結節点としての役割を担う。
診療報酬改定DXや共通算定モジュールの導入により、これまで個別最適化されていた業務プロセスが標準化される。これは短期的には移行コストが発生するものの、中長期的には業務効率化と質の向上を同時に実現する基盤となる。

薬局経営者が今すべきこと
この補正予算案を最大限活用するために、薬局経営者が今取り組むべき課題は明確だ。
まず、電子処方箋システムの導入計画を具体化すべきだ。院内処方機能の補助金は期間限定の可能性が高く、早期の申請が有利になる。マイナ保険証対応も同様で、システム改修費用の補助を受けられるうちに対応を完了させたい。
次に、公費負担医療のオンライン資格確認対応だ。レセプトコンピュータの改修は避けられない投資だが、補助制度を活用することで負担を最小化できる。令和8年度中の全国展開を見据え、早めの準備が求められる。
さらに、市販薬濫用防止への取り組みだ。対応マニュアルの習得や研修への参加を通じて、薬剤師の専門性を社会にアピールする機会と捉えるべきだ。これは薬局の社会的価値を高める戦略的な投資といえる。
薬剤師のキャリアに与える影響
今回の施策は、薬剤師のキャリアパスにも大きな影響を与える。従来の調剤業務中心のスキルセットから、医療情報の適切な取り扱い、多職種連携のコーディネート、そして公衆衛生上の課題への対応といった、より広範な能力が求められるようになる。
電子処方箋や医療情報プラットフォームを使いこなすには、一定のITリテラシーが必要だ。生成AIやデータ分析ツールの活用スキルも、今後の差別化要因となるだろう。継続的な学習と自己研鑽が、これまで以上に重要になる。
一方で、システムに支えられることで、薬剤師は本来の専門性を発揮できる時間が増える。重複投薬チェックや薬歴管理といった定型業務の自動化により、患者との対話や個別化された服薬指導により多くのリソースを投入できるようになる。

地域医療における薬局の新たな役割
在宅医療・介護の推進が国策として加速する中、薬局の地域における役割はますます重要になる。介護情報基盤との連携により、薬局は医療と介護をつなぐハブとしての機能を強化できる。
訪問介護・ケアマネジメントの提供体制確保支援に71億円が配分されるなど、在宅ケア体制の整備が進む。この中で薬局は、訪問服薬指導を通じて患者の生活実態を把握し、多職種チームに情報提供する重要な役割を担う。
地域包括ケアシステムの深化において、薬局は単に薬を渡す場所ではなく、健康相談や疾病予防、介護予防にも関与する地域の健康拠点としての機能が期待されている。

データヘルス改革の最前線に立つ薬局
全国医療情報プラットフォームの構築により、薬局が扱う情報の質と量は劇的に変化する。電子カルテ情報、検査結果、画像データ、予防接種記録など、これまでアクセスできなかった多様な医療情報が参照可能になる。
この情報をどう活用するかが、今後の薬局の競争力を左右する。単に情報を閲覧するだけでなく、患者の全体像を把握し、薬物治療の最適化に活かせるかどうかが問われる。データリテラシーとクリニカルファーマシーのスキルを兼ね備えた薬剤師の育成が急務だ。

予算案から読み解く政策の方向性
今回の補正予算案からは、政府の明確な意図が読み取れる。医療DXは単なるデジタル化ではなく、医療の質向上と効率化を同時に達成するための戦略的投資として位置づけられている。
薬局に関連する予算配分を見ると、電子処方箋やマイナ保険証といったインフラ整備に加え、薬剤師の専門性を活かした社会的課題への対応にも力点が置かれている。これは薬局・薬剤師を、医療提供体制の重要な構成要素として明確に認識していることの表れだ。
医薬品の安定供給や創薬力強化といったサプライチェーン全体への投資も手厚い。これは薬局経営の安定化にも寄与する政策であり、長期的な視点での業界支援といえる。

変革期における薬局の戦略
デジタル化の波は避けられない。しかし、それは脅威ではなく機会だ。システム投資への補助金が手厚い今こそ、将来を見据えた基盤整備を進めるべきタイミングだ。
電子処方箋の普及により、処方箋の受け取り方や調剤業務のフローは大きく変わる。患者は複数の薬局から選択しやすくなり、競争環境は激化するだろう。その中で選ばれる薬局になるには、利便性だけでなく、専門性の高いサービス提供が不可欠だ。
医療情報プラットフォームを活用した高度な服薬指導、多職種連携による在宅医療の充実、そして地域住民の健康増進への貢献――これらを実現できる薬局が、次の時代のスタンダードとなる。

令和7年度補正予算案は、薬局・薬剤師にとって大きな転換点となる施策が目白押しだ。電子処方箋、マイナ保険証、医療情報プラットフォーム、そして薬剤師の新たな社会的役割――これらすべてが、今後数年で現実のものとなる。
変化を恐れるのではなく、積極的に活用する姿勢が求められる。補助金制度を最大限活用してインフラを整備し、薬剤師の専門性を高め、地域医療における不可欠な存在としてのポジションを確立する。それが、この予算案から読み取るべきメッセージだ。
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