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薬局DXニュース解説

2025.11.17

財務省が描く「薬局2.0」—処方箋依存モデル終焉のシナリオ

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政府の財政当局が医療制度改革に関する資料を公表し、調剤薬局に対して従来のビジネスモデルからの転換を強く求めている。キーワードは「対人業務への移行」「リフィル処方箋」「セルフメディケーション支援」—。財務省が描く薬局の未来像を、2025年11月に行われた財政制度分科会の公表資料から読み解く。

処方箋依存からの決別を迫る財務省
財務省が2025年11月11日に公表した社会保障改革に関する資料は、医療提供体制の持続可能性確保に向けた強い危機感を表明する内容となっています。この中で、調剤薬局・薬剤師に対しては、従来の「処方箋を受け取って調剤する」というモデルから脱却し、医療の効率化と質向上に能動的に貢献する役割への転換が明確に求められています。

理想像:「調剤」ではなく「服薬管理」が収益源
資料では、ICTやAIを活用した「あるべき医療分野の理想像」が提示されています。そこで描かれる薬局の姿は、従来とは大きく異なるものです。
薬剤師の中心的な役割は「調剤」から「服薬管理」へと移行し、「処方箋に依存した経営」ではなく、「質の高い対人業務が収益の源泉」となるべきだと明記されています。具体的には、在宅医療や訪問診療の現場での一層の活躍や、タスクシフトの一環として「医師に代わり薬の処方を行う」ことさえ、理想像として言及されています。
これは単なる業務拡大の提案ではありません。医療DXによる治療・投薬の標準化が進む中で、薬剤師には「対人的ケア」への注力が求められており、処方箋の枚数ではなく、専門性を活かした服薬指導の質が評価される体系への転換を意味しています。

普及率0.07%—リフィル処方箋への強い焦り
この変革を実現する具体的な施策として、財務省が特に強く推進するのが「リフィル処方箋」です。
資料では、リフィル処方箋を「患者の通院負担の軽減」「医療機関の経営効率化」「医療費の適正化」という「三方良し」を実現する施策と評価しています。しかし、2024年7月時点での利用率が合計0.07%という実績に対し、「極めて低い」と強い危機感を表明しています。
政府は「リフィルが当たり前」となる社会の実現を目指すとし、早急に実効性のあるKPI(重要業績評価指標)を設定すべきと提言しています。これは、今後の診療報酬改定などで、リフィル処方箋の活用を強力に誘導する施策が導入される可能性を示唆しています。
実際、資料では医療機関側がリフィル処方に消極的な理由として「医師が患者の症状の変化に気づきにくくなる」(54.6%)、「薬を処方する際には医師の判断が毎回必須」(48.7%)という回答が挙げられていますが、こうした医療提供側の懸念を上回る形で、制度的な推進が図られる可能性があります。

セルフメディケーション支援という新たな役割
リフィル処方箋の推進は、より大きな文脈の一部です。財務省は「自助の土台」として「セルフメディケーションの浸透」を医療制度の理想像の柱の一つに据えています。
資料では、医療DX等により患者の診療・処方情報が共有され、「軽度な症状であれば自身で対応する」セルフケア・セルフメディケーションが浸透することで、「医療従事者の負担は軽減」されるとしています。
薬剤師には、このセルフケア領域での専門性発揮が期待されています。「薬局で自身の症状の相談や適切な処方を受けることができる」という記述からは、いわゆる「ゼロ次予防」「一次予防」の段階での薬剤師の役割拡大が想定されていることが読み取れます。

効率化要求と「見える化」の徹底
同時に、資料全体を貫くのは徹底した効率化の要求です。EBPM(証拠に基づく政策立案)の強化、人員配置の適正化、経営情報の「見える化」が繰り返し強調されています。
特に注目されるのは、「経営情報データベース」における職種別給与・人数の提出義務化の要求です。資料では、医療法人立の医療機関における俸給表の作成が63.5%、公開が26.1%にとどまることを問題視し、国民への説明責任の観点から情報開示の強化を求めています。
薬局・薬剤師にとって、これは「対人業務へのシフト」と「業務効率化」を同時に達成する必要があることを意味します。この両立において、ICTやAIといった医療テックの活用は、もはや選択肢ではなく必須の経営基盤となるでしょう。

保険外サービスとの組み合わせも視野に
興味深いのは、「保険外併用療養費制度の対象範囲の拡大」への言及です。資料では、患者の多様なニーズに応えるため、また医療機関の経営戦略上の選択肢拡大のため、保険内外のサービスを柔軟に組み合わせることの重要性が指摘されています。
薬局においても、保険調剤に加えて、健康相談、栄養指導、セルフメディケーション支援など、保険外サービスを組み合わせることで、収益の多様化と患者サービスの向上を図ることが期待されていると言えます。

変革期の羅針盤として
財務省からのメッセージは明確です。処方箋の調剤業務だけに依存して収益を上げる時代は終わりを告げようとしています。
これからの薬局・薬剤師には、リフィル処方箋の活用による医療の効率化、セルフメディケーションの推進、そして専門性を活かしたタスクシフトを担う、医療提供体制の能動的なパートナーとしての役割が求められています。
この変革期を乗り越える鍵は、医療テックの戦略的活用と、それに伴う業務プロセスの抜本的な見直しにあります。財務省資料は、薬局経営者にとって、今後の方向性を示す重要な羅針盤となるでしょう。
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