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薬局DXニュース解説

2025.09.29

デジタル化の落とし穴―第一三共GS1コード誤印字が浮き彫りにする薬局業務の新たなリスク

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第一三共のエフィエント錠におけるGS1コード誤印字問題は、単なる印字ミスの域を超えて、薬局業界が直面するデジタル化時代の構造的課題を浮き彫りにしている。

薬剤師の目視確認が最後の砦に、電子処方箋時代の品質管理体制を問う
9月に発覚したこの問題では、抗血小板薬エフィエント錠3.75mgのPTPシートに、作用機序の異なる抗凝固薬リクシアナ錠15mgのGS1コードが印字されていた。両剤とも血栓症治療に用いられるものの、適応症や禁忌が大きく異なる薬剤である。問題の深刻さは、これが「デザインデータの取り扱いミス」という人的要因によって引き起こされた点にある。

電子処方箋システムへの影響と薬局現場の混乱
この誤印字により、一部地域では電子処方箋システムが一時停止する事態が発生した。GS1コードは調剤包装単位を識別する重要なキーコードであり、電子処方箋や調剤支援システムの根幹を支えている。薬局現場では、ピッキング支援システムが誤った薬剤を指示する可能性があり、薬剤師による目視確認の重要性が改めて浮き彫りになった。
特に注目すべきは、クカメディカルが迅速に注意喚起を行った点である。同社のピッキング支援システム「ミスゼロ子」のような調剤支援技術に依存する薬局では、システムが示す情報と実際の薬剤との照合確認が生命線となる。

製薬企業の危機管理体制に見る課題
第一三共の対応には、現代の医療DXに対する理解不足が見て取れる。SNSで問題が拡散してから1週間以上経過しても公式発表がなされなかったのは、GS1コード誤印字がもたらすシステム全体への影響を軽視していた可能性を示唆している。
従来の品質管理では「錠剤自体に問題がなければ安全」という考え方が主流だった。しかし、デジタル調剤時代においては、コード情報も品質の一部として位置づけられるべきである。電子処方箋や調剤支援システムが普及する中、誤ったコード情報は直接的に患者安全に関わる重大な品質問題となり得る。

薬剤師に求められる新たな役割
この問題は、薬剤師の専門性にも新たな視点を提起している。従来の薬学的知識に加えて、デジタルシステムの特性理解と、システムエラーを想定したリスク管理能力が求められる時代に入っている。
調剤支援システムが高度化する一方で、システムの示す情報を盲信せず、薬剤師としての専門的判断を維持することの重要性が再確認された。GS1コード、薬剤外観、患者情報の三点照合を基本とした確認プロセスの徹底が、新たな安全管理の標準となるだろう。

業界全体への提言
今回の問題を受けて、業界には以下の取り組みが急務である。
製薬企業は、製品コード管理を製品品質の中核要素として位置づけ、コード生成から印字までの工程管理を強化する必要がある。また、問題発覚時の迅速な情報開示体制を整備し、医療現場との連携を密にすることが重要だ。
規制当局においても、GS1コード管理に関するガイドライン整備と、違反時の対応プロトコル明確化が必要である。

第一三共のGS1コード誤印字問題は、医療DXの進展に伴う新たなリスクを如実に示している。技術の進歩が患者安全向上に寄与する一方で、システムの脆弱性が新たな医療事故の温床となり得ることを、業界全体が認識すべきタイミングである。
薬剤師は、デジタル化時代においても最後の砦としての役割を担い続ける。技術と専門知識の両輪で患者安全を守る新たな薬剤師像の確立が、今後の医療安全向上の鍵を握っている。
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