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薬局DXニュース解説

2025.09.30

「お願い」では済まない医薬品供給危機 ~補助金頼みの構造的問題を斬る~

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ネオクリティケア製薬の破産で露呈した医薬品供給の脆弱性。厚労省は補助金制度で代替生産を「お願い」するが、営利企業に赤字製品の製造を求める矛盾した政策に、現場薬剤師は振り回され続けている。真の解決策はどこにあるのか。

上から目線の「お願い」が映し出す制度設計の甘さ
令和7年9月5日のネオクリティケア製薬株式会社の破産決定を受け、厚生労働省が発出した事務連絡を読み返すと、違和感を覚えずにはいられない。「供給不足等が生じており、これらの代替薬等の需要が高まっております」「増産や代替薬の製造販売業者に対する代替供給の依頼」——まるで他人事のような表現が並ぶ。
本来であれば、制度設計の不備を詫び、土下座してでも製薬企業に協力を求めるべき状況だ。にもかかわらず、上から目線の「お願い」調で済まそうとする姿勢に、構造的な問題の深刻さが表れている。

薬剤師が直面する現実と制度の乖離
現場の薬剤師にとって、メーカー破産による供給停止は日常業務を大きく左右する深刻な問題だ。患者への説明、代替薬の選定、在庫管理の見直し——これらすべてが一企業の経営破綻によって一夜にして変わってしまう。
しかし今回の厚労省の対応を見る限り、こうした現場の混乱への理解は薄い。「医薬品安定供給支援補助金」の4次公募開始を発表し、供給不安を引き起こしている医薬品の増産も補助対象とするというが、果たしてこれで根本的解決になるのだろうか。

補助金制度の根本的矛盾
営利団体である株式会社に、赤字が確実な製品の製造を「お願い」すること自体が筋違いだ。企業は株主に対する利益追求責任を負っており、慈善事業を行う組織ではない。
真摯な対応であれば、「赤字解消に必要な費用を全額補助し、来年度の薬価改定では不採算品目の価格を適正水準まで引き上げる」といった具体的なコミットメントが必要だ。予見性のない制度のもとで、企業が長期的な投資判断を下すことは困難である。

設備投資の現実と時間軸のずれ
補助金を活用した設備投資で代替薬製造が可能な企業は、実際にはごく限られている。医薬品製造には厳格な品質管理体制と専門設備が必要で、新規参入には最低でも2〜3年を要する。
この時間軸を考慮すれば、ネオクリティケアに直接補助金を投入し、経営再建を図った方が結果的に安価で迅速な解決策だった可能性が高い。既存の製造ラインと品質管理システムを維持しながら供給を継続する方が、新規投資よりもはるかに効率的だからだ。
なぜこんな歪な構造が生まれたのか?~中医協の「欠席裁判」システム~
製薬会社が参加できない薬価決定の場
医薬品の価格を決める中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会。ここで日本の薬価制度の根幹が決められているが、驚くべきことに製薬会社は一切参加できない構造になっている。

現在の構成メンバーは以下の通り
支払側:健康保険組合連合会、全国健康保険協会など保険者代表
診療側:日本医師会、日本薬剤師会、日本歯科医師会の代表
公益委員:学識経験者

当事者不在の「欠席裁判」
薬価を下げられる当の製薬業界は、この重要な意思決定の場から完全に締め出されている。これは企業経営の生殺与奪を握る価格決定において、当事者の発言権を一切認めない「欠席裁判」に他ならない。
製薬産業は何年も前から「これ以上の薬価引き下げは持続可能な供給に支障をきたす」と警鐘を鳴らし続けてきた。しかし中医協はこうした声を聞く制度的枠組みを持たず、結果として現在の供給危機を招いている。
薬局運営への波及効果
薬局経営者にとって、こうした供給不安は在庫リスクと直結する問題だ。代替薬への切り替えが頻発すれば、デッドストック化のリスクが高まり、経営を圧迫する。患者への服薬指導も複雑化し、薬剤師の業務負荷は確実に増大する。
また、後発医薬品の供給不安が続けば、先発品への回帰圧力が強まり、医療費全体の押し上げ要因となる。結果として、医療保険財政にも悪影響を及ぼす可能性がある。

求められる抜本的制度改革
今回の事案は、現行の医薬品供給システムの脆弱性を浮き彫りにした。薬価制度の抜本的見直し、製造業者の経営安定化支援、そして供給責任の明確化が急務だ。
特に不採算品目の薬価については、製造コストを適切に反映した価格設定が不可欠である。「安かろう」の競争から脱却し、「安定供給」を最優先とする制度設計への転換が求められている。
こうした構造的問題の解決を強く求めたい。「お願い」ではなく、実効性のある政策実行を期待する。
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