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薬局DXニュース解説

2025.08.21

AI生成?偽ガイドライン登場!薬剤師が知るべき医学書偽造の新手口

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日本高血圧学会が8月18日に発表した注意喚起は、医療業界に新たな脅威の存在を浮き彫りにした。同学会の公式ガイドライン「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(ライフサイエンス出版)に酷似したタイトルと表紙デザインを持つ偽書籍がAmazonで販売されていることが判明したのだ。

高額医学書を狙う悪質業者、日本高血圧学会が異例の注意喚起

偽書籍の巧妙な手口
問題となった偽書籍は「高血圧管理・治療 ガイドライン2025: JSH2025に基づく高血圧管理の決定版 -」というタイトルで、正規版の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」と極めて類似している。販売者は個人名であり、プロフィールでは医師を名乗っているものの、いささか日本語が不自然であり、その真偽は不明。内容はおそらくはAIによって生成された可能性が高いとみられる。
正規版は日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会が編集し、304ページで定価4,180円(税込)という価格設定だが、偽書籍は74ページで定価2,530円(税込)と価格は、ほぼ半額であり内容は明らかになっていない。何が書かれているか興味あるところではあるが、興味本位で手を出さないほうが良いだろう。
薬剤師が直面するリスク
この問題は薬剤師にとって特に深刻な影響を与える可能性がある。薬局では高血圧患者への服薬指導や薬物療法の最適化において、最新のガイドラインに基づいた正確な情報提供が求められる。偽のガイドラインに基づいた不正確な情報により、患者への不適切な服薬指導による治療効果の低下や副作用リスクの増大、医師との連携において誤った情報に基づく疑義照会や処方提案、薬局内でのスタッフ教育における誤情報の拡散、さらには法的責任問題への発展の可能性も否定できない。

高額医学書を狙う新たな犯罪手口
医学書や薬学書、各種ガイドラインは一般書籍と比較して単価が高く、専門性が高いため購入者の判別が困難という特徴がある。これらの特性を悪用し、AI技術を利用して短期間で偽書籍を大量生成する手口が確立されつつあると考えられる。
特に薬剤師向けの専門書籍も同様のターゲットとなる可能性が高い。調剤薬局やドラッグストアチェーンでは、新人薬剤師の教育や継続的な学習のため、定期的に専門書籍を購入する傾向があり、組織的な購買力を持つことから、偽書籍販売者にとって魅力的な市場となっている。

薬局における対策と確認方法
薬剤師および薬局経営者は、医学書購入時に以下の点を徹底的に確認する必要がある。
出版社名の正確性確認では、信頼できる医学系出版社(南江堂、医学書院、ライフサイエンス出版等)からの発行であることを確認する。編集者・監修者の確認では、学会や大学、病院などの公的機関に所属する専門家による編集・監修であることを確認する。ISBNコードの照合では、出版社の公式サイトや書籍データベースでISBNコードが一致することを確認する。
購入先の選定では、出版社公式オンラインストア、大手書店、医学書専門書店など信頼できる販売チャネルを利用する。価格の妥当性確認では、他の類似書籍と比較して異常に安価でないことを確認し、レビューと評価の精査では、購入者レビューの内容と評価者の信頼性を慎重に検討する。

業界全体での情報共有体制の必要性
この問題への対応として、薬剤師会や薬局チェーン本部では、偽書籍に関する情報共有システムの構築が急務となっている。疑わしい書籍を発見した場合の報告体制の整備、スタッフへの注意喚起と教育の実施、信頼できる書籍リストの作成と共有が求められる。
また、医学書購入時のチェックリストを作成し、全スタッフに周知することで、組織的な対策を講じることが重要だ。

今後の展望と対策
AI技術の進歩により、このような偽書籍の生成はさらに精巧化し、発見が困難になることが予想される。過去にもベストセラー作家の名を語り新刊を装った偽書籍が登場し、作家本人からの申立で削除された経緯がある。Amazonはプラットフォームであり中身については関与しない姿勢だ。薬剤師個人の注意だけでなく、業界団体、出版社、オンラインプラットフォーム事業者が連携した包括的な対策が必要となる。
日本薬剤師会や各都道府県薬剤師会においても、会員向けの注意喚起と情報提供体制の強化が期待される。また、薬学教育においても、情報の信頼性を見極める能力の向上が重要なカリキュラムとして位置づけられるべきだろう。
この問題は単なる偽物商品の販売を超え、患者の健康と生命に直結する医療の質に影響を与える深刻な事態であることを、すべての医療従事者が認識する必要がある。薬剤師として、正確な情報に基づいた適切な薬物療法の提供を継続するため、書籍購入時の慎重な確認と、業界全体での情報共有体制の構築が急務となっている。
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