AIとの対話が陰謀論者の心を動かす!? 驚きの研究結果

このような状況を受けて、米国の研究チームが陰謀論への新たな対処法を発表した。MITやコーネル大学の研究者らは、大規模言語モデル(LLM)を用いて陰謀論者と対話させる実験を行った。

従来、陰謀論者への説得は難しいと考えられてきた。それは、陰謀論者は、ある種の信念に基づいた行動であると信じられてきたからだ。否定されればされるほどより先鋭化し頑なな行動を起こす。しかし、この研究では、各陰謀論者に合わせた説得力のある反論が不足していたことが問題ではないかと仮説を立てた。

実験では2190人の陰謀論者がLLM(GPT-4 Turbo)と3ラウンドの対話を行った。参加者は自分の陰謀論を詳しく説明し、AIには信念を低下させるようプロンプトで指示された。

その結果、参加者の陰謀論信念は平均21.43%低下した。27.4%の参加者が対話後に陰謀論を確信しなくなった。この効果は2カ月後も持続し、様々な陰謀論で一貫して見られた。

さらに、AIとの対話は関連のない陰謀論の信念にも影響を与え、行動意図にも変化をもたらした。陰謀論を支持するアカウントをフォロー解除する意欲が高まったという。

研究チームは「多くの陰謀論者は説得力のある反論に直面すれば考えを変えられる。人々の推論能力を過小評価してはいけない」と述べた。

陰謀論に傾倒するきっかけは些細な疑問や不安であることが多い、そうした隙間に陰謀論が入り込むことで「自分は隠されていた事実を知ってしまった」「多くの人に真実を伝えなければならない」という正義感に基づく行動へと昇華していく。こうした行動が匿名のSNSのコミュニティだけで済めばよいが、多くの場合、その変貌は周囲の人々を困惑させる。結果、友人や家族との人間関係に影響を及ぼすことになる。また子供にワクチンを受けさせない、がんを民間療法で治そうとするなど、自身や家族の健康や生命に影響を及ぼす事があるだけに厄介だ。

将来的に、こうしたAIとの対話セラピーのような形で陰謀論の信念を解いていくようなシステムの開発が望まれる。AIは根気強く何度でも何時間でも対話を続けてくれる。AIは感情を持たないがこうした対話セラピーでは、むしろ適任かもしれない。