今回の事件は、医師が指示したミリグラム単位の薬剤を、薬剤師がミリリットルに換算する際にシステムの誤作動が発生した結果です。具体的には、システムが小数点以下の第3位で四捨五入すべきところ、第2位で四捨五入されるという設定ミスが原因でした。過剰投与の異常に気づいたのは薬剤師であり、この発見がなければ更なる被害が発生していた可能性があります。
過剰投与を受けた患者2人はいずれも60歳代の男性で、一人は約1.2倍の投与を受けましたが、幸いにも健康に影響はありませんでした。しかし、もう一人の患者は約2倍の薬剤を3日間連続で投与された結果、深刻な神経障害が生じ、6月に元々患っていた血液がんの進行により亡くなっています。
この事例を受けて、ユヤマ社は再発防止策として、システムのチェック機能を強化し、品質コンサルタントの採用を行うなど、品質確保に向けた取り組みを強化しています。
今回の事故は、技術の進化によって人間のミスを減らすことが期待される一方で、システムに過度に依存することの危険性を浮き彫りにしました。日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科の勝俣範之教授は、「抗がん剤は劇薬であり、過量投与は患者の生命に危険を及ぼす」と指摘しています。また、電子カルテ導入により医療事故は減少しているものの、システムの誤作動が引き起こす事故には特に注意が必要であると強調しています。
薬剤師の役割は単なる調剤にとどまらず、システムが提供する情報の正確性を常に確認することで患者の安全を守ることにあります。システムは便利である反面、完全に頼り切ることは危険であり、人間による最終的なチェックが不可欠です。
医療のデジタル化は進む一方ですが、システムに対する過信は禁物です。薬剤師が果たす役割の重要性はますます高まっており、今後も人間による確認作業を強化し、患者の安全を守るための対策が求められます。