何が変わるのか ─ 「都度申請」から「エリア単位の許可」へ
これまで在宅医療で使用する車両が駐車禁止区域に停める必要がある場合、訪問の都度、駐車日時・訪問先住所・経路などを記載した申請書を警察署長に提出し、許可を得る必要があった。緊急の往診や臨時の訪問が発生した際には、この事前申請の手続きが時間的な制約となり、「手続きが煩雑」「緊急訪問に対応しづらい」という声が現場から上がっていた。
今回千葉県警が薬剤師向けに導入した「エリア駐車許可証制度」は、この構造を変えるものだ。県薬が実施する研修を受講し、受講証明書(有効期間3カ月)を取得した上で、患家を管轄する警察署に車検証等とともに申請すれば、車両単位で1年間有効の許可証が発行される。許可証を車両に掲示しておけば、その管轄エリア内では個別申請なしに駐車禁止区域での駐車が可能となる。
注意すべきは、これは「駐車禁止区域でどこでも自由に停められる」という意味ではない点だ。あくまで、①患家の駐車場の利用を優先する、②患家から概ね200m以内にコインパーキングがある場合は原則そちらを利用する、③医薬品・医療機器が重量物で運搬困難な場合に限る、④地域の交通実態によっては認められないケースもある、といった要件が付されている。つまり「最終手段としての特例」という位置づけであり、運用にあたってはこの前提を会員薬剤師に周知徹底する必要がある。
制度設計の核心 ─ 「研修団体としての公的認証」という仕組み
本制度のポイントは、単に許可証が発行されたという表面的な事実ではなく、県薬が「研修実施団体」として千葉県警から公的に認証されたという点にある。研修内容は道路交通法に基づく駐停車ルールの再確認などで、内容自体は基礎的なものだが、それを実施する団体として職能団体が県警から認証を受けたという構造は、行政・警察機関との関係構築における一つのモデルケースとなる。
これは在宅医療の制度的位置づけが、医療保険制度の枠内だけでなく、道路交通行政の枠組みにおいても認知されつつあることを示す動きと捉えられる。今後、調剤報酬上の在宅関連加算が拡充されていく方向性とあわせて考えると、薬剤師の訪問業務を「移動を伴う医療提供行為」として行政全体で支援していく流れの一環と位置づけることもできるだろう。
薬局経営者・薬剤師にとっての実務的インパクト
在宅訪問に従事する薬剤師・薬局にとって、本制度がもたらす変化は以下の3点に整理できる。
第一に、緊急訪問への対応速度が向上する。これまでは緊急の訪問依頼があっても、駐車許可の都度申請がボトルネックとなり、結果的に対応が遅れるケースもあった。許可証があれば、この手続き上の制約が解消される。
第二に、訪問担当者の事務作業負担が軽減される。訪問のたびに申請書類(駐車日時、訪問先住所、経路図など)を作成する手間がなくなることは、薬剤師・事務スタッフの時間的コストの削減に直結する。在宅訪問件数が多い薬局ほど、この効果は大きい。
第三に、年1回の研修受講が更新条件となっているため、駐停車ルールの再確認が薬局スタッフの安全運転意識の向上にもつながる可能性がある。これは付随的な効果だが、軽視できない。
一方で、留意すべき点もある。許可証は車両単位・管轄警察署単位での発行であり、複数エリアに患家がある薬局では、エリアごとに申請が必要となる。訪問範囲が広い薬局ほど、申請件数自体は一定数発生する点は理解しておくべきだろう。
今後の検討課題 ─ 非会員拡大と全国展開の可能性
この制度の実現に向けて動いた千葉県薬剤師会の島田恭光副会長は、今後の検討課題として「非会員への拡大」と「長時間対応時の運用」を挙げている。現時点では県薬の会員を対象に受講証明書が発行されている状況だが、在宅医療を担う薬局は会員・非会員を問わず存在するため、対象範囲の拡大は地域医療提供体制全体への影響度を左右する論点となる。
また、全国初の事例であることから、他の都道府県警察・薄剤師会が同様の制度導入を検討する際のモデルケースとなる可能性が高い。在宅医療需要が増加する中、駐車許可の問題は千葉県に限らず全国共通の課題であり、今後の横展開の動きには注目しておきたい。
comments