「研究用」という名の抜け道
現在、大手ドラッグストアの店頭には「研究用」と小さく記載された新型コロナウイルスやインフルエンザの検査キットが並んでいる。一回分1,078円という価格で販売されているこれらの製品は、本来は診断目的での使用を想定していないはずだが、実際には一般消費者が感染の有無を調べるために購入している実態がある。
この現状について、ある大手チェーンは「積極的には販売していないが、気軽に検査したいというニーズが一定数ある」と説明している。しかし、こうした状況こそが今回の規制強化の背景となっている。
品質への懸念が規制の引き金
規制強化の最大の理由は、研究用キットの品質に対する深刻な懸念だ。2021年には京都府警が、未承認の新型コロナ検査キットを感染判定用として広告販売した業者を薬機法違反で逮捕する事件が発生した。このキットは中国企業が製造したもので、承認品と比較して著しく精度が低かったという。
検査結果の不正確さは単なる商品の問題を超え、健康被害や感染拡大という公衆衛生上のリスクを招く可能性がある。薬剤師として、この点は特に重要な認識すべき事項である。
新たな規制の内容
厚労省が策定予定のガイドラインでは、診断目的での使用が明らかに想定される製品について、体外診断用医薬品としての承認申請を義務付ける。対象となるのは新型コロナウイルスの抗原検査キットのほか、淋病やクラミジアなどの性感染症検査キットも含まれる見通しだ。
ただし、唾液などを郵送して検査するサービスについては薬機法の範囲外として、今回の規制対象には含まれない。
コロナ禍が浮き彫りにした課題
今回の問題の根底には、新型コロナウイルス感染症のパンデミック初期における検査体制の不備がある。当初はPCR検査しか選択肢がなく、「検査難民」が社会問題となった。医療現場専用の簡易キットが発売されてから薬局での販売が認められるまで1年4カ月、一般用検査キット(OTC検査キット)として正式発売されるまでは2年3カ月もの期間を要した。
この間隙を縫って研究用キットが普及したという経緯を踏まえると、今回の規制強化は必要な措置である一方、将来的な感染症流行に備えた迅速な対応体制の構築も同時に求められている。
薬剤師に求められる対応
この規制強化により、薬局で働く薬剤師には以下の対応が求められる。
まず、現在取り扱っている検査キットの承認状況を改めて確認し、研究用製品については販売方針を見直す必要がある。顧客から検査キットについて相談を受けた際には、承認済み製品の使用を推奨し、適切な使用方法について指導することが重要だ。
また、検査結果の解釈についても、薬剤師としての専門知識を活かした適切なアドバイスを提供することが期待される。特に、偽陰性や偽陽性の可能性について説明し、必要に応じて医療機関への受診を勧めることは薬剤師の重要な役割である。
医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長は「国が早期に医療用キットの転用を認めるなど、市民が品質を保証された検査キットを入手できるようにすることが必要だ」と指摘している。この提言は、規制強化と同時に、承認プロセスの迅速化や薬局での適切な販売体制の構築が不可欠であることを示唆している。
薬剤師は医薬品の適正使用における最前線の専門家として、今回の規制変更を単なる制約ではなく、より質の高い医療サービス提供の機会と捉えるべきであろう。品質が保証された検査キットの適切な販売と使用指導を通じて、地域住民の健康維持に貢献する新たな役割が期待されている。
この規制強化は、薬局業界にとって一時的な混乱をもたらす可能性があるものの、長期的には薬剤師の専門性がより重視され、信頼性の高い医療サービス提供体制の構築につながると考えられる。
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