医療用医薬品の供給不足が深刻化している。特にジェネリック医薬品(後発薬)は4年以上にわたり安定供給が難しい状況が続いている。政府はこの問題に対応するため、医薬品医療機器法(薬機法)の改正案を今国会に提出し、業界の構造改革を後押しする基金の創設を打ち出した。しかし、現場の薬剤師たちは「解決の兆しが見えない」と嘆息する。
発注通りの納品はわずか1%未満
大阪府薬剤師会が昨年実施した調査では、回答した1581薬局のうち、希望通りの数量が納品された薬局はわずか5件だった。薬剤師たちは、日々変動する供給状況に振り回されながら、患者対応に追われている。
「せき止め薬や総合感冒薬が入らず、代替薬を探すのに奔走している。卸業者からは“次回の入荷は未定”という連絡ばかり。患者さんに説明するたびに申し訳ない気持ちになる」と、ある調剤薬局の薬剤師は肩を落とす。
特に高齢者や慢性疾患の患者にとって、薬の切り替えは大きな負担だ。「処方変更を医師に依頼するも、診療の負担が増えている。患者さんからは『いつになったら手に入るのか』と詰め寄られることもあり、精神的にも消耗している」と語る。
原薬高騰と生産体制の課題
後発薬不足の背景には、2020年以降に明るみに出た後発薬メーカーの不祥事がある。業務停止や改善命令を受けた企業が相次ぎ、代替生産を担う企業も急増する需要に対応しきれない状況が続いている。日本製薬団体連合会によれば、今年2月時点で出荷制限または停止状態の後発薬は2117品目(全体の約26%)にのぼる。
さらに、後発薬業界は200社近くが乱立し、多品目を少量ずつ生産する「少量多品目」構造が定着している。これにより、生産効率が下がり、増産対応が困難な状況に陥っている。原薬やエネルギー価格の高騰も経営を圧迫し、薬不足の解消を妨げている。
供給安定化に向けた取り組みと課題
政府は今国会で、安定供給を促進するための改正法案を提出。新たに創設する基金を活用し、企業の事業再編や品目統合を後押しする方針だ。これに対し、日本ジェネリック製薬協会の川俣知己会長は「企業間の情報交換を進め、持続可能な業界を目指したい」と意欲を見せる。
しかし、企業間の統合には慎重な意見も多い。「何が不足しているのか、何を増産すべきか明確なデータが不足している。場当たり的な対策では根本解決にはならない」と、神奈川県立保健福祉大学の坂巻弘之シニアフェローは警鐘を鳴らす。
薬の供給状況を可視化する「asTas」
後発医薬品の供給不足が続くなか、有志の薬剤師が運営する
一般社団法人「asTas」による「
医療用医薬品供給状況データベース」が注目を集めている。
このデータベースは、国内製薬企業約200社の公表資料をもとに、「限定出荷」や「供給停止」などの情報を網羅。薬局などの現場で活用され、医薬品の供給状況をリアルタイムで把握できる。
2021年からサイトを運営する薬剤師の山本高大さんと近野優さんによると、利用者の多くは薬剤師で、処方提案の際に医師と情報を共有するために活用されている。直近1カ月でも会員数が500人増加しており、薬局の現場での関心の高さがうかがえる。
薬剤師たちの奮闘と未来への不安
国は後発薬の使用拡大を推し進めるため、昨年10月から「選定療養」の制度を導入。先発薬を選択する患者に追加費用の負担を求める仕組みだ。この制度により、後発薬への切り替えは進んでいるが、肝心の供給が追いつかない現状では、薬剤師の負担が増すばかりだ。
「このままでは、患者さんに安定した薬を届けられない。政府やメーカーの対策が形になるまで、私たちは粘り強く対応し続けるしかない」と、ある薬剤師は切実な思いを語る。
今後、供給不足の可視化や生産体制の強化がどこまで進むのか、業界全体の変革が求められている。薬剤師たちは、日々の業務に追われながらも、患者の健康を守るため、懸命に奮闘している。
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