新型コロナウイルスやインフルエンザの感染が過去最高を記録し、医療現場が逼迫する中、日常生活における感染リスクの可視化に向けた新たな知見が明らかになった。京都工芸繊維大学などの研究チームは、エスカレーター利用時の飛沫拡散に関する詳細なシミュレーション結果を1月5日に発表した。
エスカレーターでせきをしたらウイルスを含む飛沫はどのように広がるのか。京都工芸繊維大学などの研究チームが計算したところ、下りより上りの方が後ろの人の感染リスクが高くなることがわかった
本研究では、身長175センチの成人男性10名が一列に並んだ状況を想定し、最前列の人物が咳をした際の1.5ミリ以下の微細な飛沫の動きを、最新のコンピューターシミュレーション技術を用いて解析している。
特筆すべき発見として、上りエスカレーターと下りエスカレーターでは飛沫の挙動が大きく異なることが判明した。下りエスカレーターでは飛沫が速やかに上昇し、人々の頭上を通過する一方、上りエスカレーターでは飛沫が一旦腰付近まで下降した後に再浮上し、人々の間で長時間滞留する傾向が確認された。
流体力学を専門とする山川勝史教授は、「人の動きによって生じる複雑な気流が飛沫の拡散を促進するため、適切な距離の確保が感染予防において重要である」と指摘している。具体的には、エスカレーター利用時に3段程度の間隔を空けることで、感染リスクを十分に低減できるとしている。
なお、本シミュレーションはマスク非着用時の状況を想定したものだが、研究チームは適切なマスクの着用により、周囲への飛沫拡散量を大幅に抑制できることも併せて報告している。
本研究結果は、公共空間における感染対策の重要性を改めて示すとともに、具体的な予防行動の指針を提供する貴重な科学的知見となることが期待される。