薬価下限の引き上げへ - 20年ぶりの大転換、しかし業界からは「焼け石に水」の声も
物価高騰を受け、厚生労働省が2000年以来となる画期的な最低薬価引き上げに踏み切る。しかし、根本的な制度改革なしでは「薬価の底上げにはつながらない」と、医療現場からは冷ややかな声が相次いでいる。
厚生労働省は2024年12月19日、医薬品の最低薬価を引き上げる方向で調整に入ったことを発表した。これは2000年度以降、消費増税時の対応を除けば初めての引き上げとなり、昨今の物価高騰に対応する措置として位置付けられている。
最低薬価は医薬品の安定供給を確保するための重要な制度として、剤形区分ごとに設定されている。現行の最低薬価は、錠剤およびカプセル剤が1単位あたり10.1円、顆粒剤が1グラムあたり7.5円、100ミリリットル未満の注射剤は97円となっている。近年の物価上昇により、製薬業界からは安定供給維持の観点から最低薬価引き上げを求める声が強まっていた。
しかし、多くの薬剤師が懸念を示すのは、「みなし最低薬価制度」の存続である。この制度が撤廃されない限り、最低薬価を引き上げたとしても、現在薬価が下限に張り付いている品目については実質的な価格改善は期待できないとの見方が強い。
「みなし最低薬価」制度とは?
医薬品の価格制度において重要な役割を果たす「みなし最低薬価」制度は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の薬価算定に関する特例的な仕組みである。この制度下では、新規収載される後発医薬品の薬価が、すでに収載されている同一成分の後発医薬品の最低価格を下回ることができない。
しかし、この制度により、一度市場で低価格に張り付いた医薬品は、たとえ最低薬価が引き上げられたとしても、価格の上方修正が困難となっている。製薬業界からは、この制度が医薬品の適正価格の実現を妨げているとの指摘が続いている。
例えば、ある後発医薬品の価格が1錠あたり8円で張り付いている場合、最低薬価が10.1円から引き上げられたとしても、みなし最低薬価制度が存続する限り、その医薬品の価格は8円のまま据え置かれることになる。
来年度の薬価改定においては、医薬品の市場取引価格が現行の薬価を平均で5.2%下回っていることから、全体としては従来通りの引き下げ方針が維持される見通しである。具体的な最低薬価の引き上げ幅については今後の調整課題とされている。
なお、薬価制度は2021年度より年次改定に移行している。これに対し製薬業界からは、研究開発投資や安定供給体制の維持に支障をきたす可能性があるとして、継続的な反対の声が上がっている。厚生労働省は財務省との協議を経て、近く最終的な合意に達する見込みである。
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