国内初の経口抗新型コロナウイルス薬として注目を集めた塩野義製薬の「ゾコーバ(一般名:エンシトレルビル)」が、費用対効果の面で厳しい評価を受けた。10月9日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)において、ゾコーバは「費用増加」という最低ランクの評価を受けることが承認された。この評価は、ゾコーバが一般的な対症療法に比べて追加的な有用性がなく、余分なコストがかかるだけであることを示唆している。
ゾコーバは2022年11月に緊急承認された薬剤だが、その承認時から薬効について様々な疑問が指摘されてきた。臨床試験では症状の改善が1日程度早まるという結果が示されたものの、重症化予防や後遺症予防の効果は明確に示されていない。にもかかわらず、1回の治療で5万2000円以上という高額な薬価が設定され、その費用対効果に疑問の目が向けられていた。
今回の評価では、ゾコーバが一般的な風邪薬と比較して優位性を示せなかったことが大きな要因となっている。臨床試験では咳止め薬や抗ヒスタミン薬との併用が禁止されていたため、実際の臨床現場での効果を正確に反映していない可能性が指摘されている。さらに、臨床試験の分析対象患者数が当初の計画よりも多くなっていたことも、薬効評価の信頼性に疑問を投げかけている。
この状況は、新型コロナウイルス感染症の治療薬開発と承認プロセスに関する重要な問題を提起している。現在、医療費削減の影響で一般医薬品までもが出荷調整を余儀なくされる中、効果が疑問視される高価な医薬品を承認することの妥当性が問われている。緊急時とはいえ、十分な検証なしに高額な薬剤を承認することは、限られた医療資源の効率的な配分という観点から問題があると言わざるを得ない。
さらに、この問題は日本の医薬品承認制度と費用対効果評価システムの在り方にも一石を投じている。現状では、費用対効果の評価結果が薬価にわずかな影響しか与えないことや、保険収載の判断に費用対効果の視点が十分に反映されていないことが指摘されている。諸外国では費用対効果評価の結果を薬価や保険適用の判断により積極的に活用している例もあり、日本もこうした取り組みを参考にすべきではないかという声が上がっている。
国民皆保険制度を持続可能なものとし、真に必要な医療に資源を集中させるためには、新薬の承認プロセスや費用対効果評価の在り方を根本的に見直す必要がある。ゾコーバの事例は、緊急時における薬剤承認の難しさと、高額医薬品の費用対効果をめぐる課題を浮き彫りにした。今後は、患者の利益を最優先としつつ、限られた医療資源を効果的に活用するための制度設計が求められる。医療関係者、製薬企業、政策立案者、そして市民を交えた幅広い議論が不可欠だ。
comments