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薬局DXニュース解説

2024.10.17

ワクチンの「シェディング」説に関する科学的見解 − 免疫学専門家が解説

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Xで活動している免疫学を専門とする薬剤師Elemental_Ph.D.氏が、ワクチンに関する「シェディング」説について科学的な視点から解説していましたので紹介します。この説は、反ワクチン活動家や陰謀論者によってワクチン接種者から未接種者へとワクチンの影響が伝播するという懸念を指摘し、一部の飲食店などで入店拒否などの騒動に発展しています。

「シェディング」説の出処と学術的評価

Elemental_Ph.D.氏によると、この説の起源は国際的な評価を受けていない学術雑誌に掲載された論文です。同氏は、学術雑誌の信頼性を判断する際の重要な指標として、査読の有無、英語での発表、国際的な評価の3点を挙げています。問題の雑誌は最後の点を満たしておらず、世界的に信頼される学術データベースにも収録されていないことから、その信頼性には疑問が投げかけられています。

「シェディング」説の科学的検証

この説では、ワクチンによって体内で生成されたスパイクタンパク質が変異し、プリオンとして他者に伝播する可能性が指摘されています。しかし、Elemental_Ph.D.氏は以下の点を指摘し、この説の科学的妥当性に疑問を呈しています。
1.ウイルス感染時にも同様のプロセスが起こる可能性があるにもかかわらず、ワクチンのみが議論の対象となっている点

2.ワクチンによるタンパク質合成は短期間であり、長期的な影響は考えにくい点

3.仮に異常プリオンが発生しても、体外への排出量は極めて少なく、感染性を維持できる可能性が低い点
さらに、既知のプリオン病であるクロイツフェルト・ヤコブ病でさえ、唾液や呼吸、汗からの感染は確認されていないことを指摘しています。

タンパク質の性質と環境要因

Elemental_Ph.D.氏は、タンパク質が通常の環境下で非常に不安定であることを強調し、プリオンが強い感染性を維持できるという説の非現実性を指摘しています。生物やウイルスが持つ防御機構がプリオンには存在しないことから、環境中での生存可能性は低いと説明しています。

「シェディング」懸念の社会的背景と「穢れ」の概念

こうした懸念の背景には、未知のものに対する恐怖や「穢れ」の概念があるとElemental_Ph.D.氏は分析しています。過去の例を挙げながら、こうした概念が社会に根付く可能性があることを警告し、科学的知識の普及と不安に寄り添うコミュニケーションの重要性を訴えています。

Elemental_Ph.D.氏も指摘する「穢れ」の概念は、人類の歴史を通じて様々な形で存在してきました。この概念は、単なる迷信ではなく、社会心理学的に重要な意味を持っています。

歴史的文脈
日本の歴史を振り返ると、「穢れ」の概念は社会構造や差別の根源となってきました。例えば、特定の職業に従事する人々や、特定の疾病を持つ人々が社会から隔離されるなど、「穢れ」の概念が社会的排除の正当化に利用されてきました。

心理的メカニズム
「穢れ」の感覚は、人間の基本的な生存本能と深く結びついています。未知のものや理解できないものを「穢れ」として認識し、それを避けることで、潜在的な危険から身を守ろうとする心理が働きます。

現代社会への影響
科学技術の発展した現代においても、「穢れ」の概念は形を変えて存在しています。新しい技術や未知の物質に対する不安は、しばしばこの古い概念と結びつき、根拠のない懸念を生み出す原因となっています。

ワクチンと「シェディング」懸念の関係

ワクチンに関する「シェディング」懸念は、この「穢れ」の概念が現代的に表出した一例と考えられます。

未知への恐怖
mRNAワクチンやレプリコンワクチンなど、新しい技術を用いたワクチンは、多くの人にとって未知のものです。その作用機序や長期的影響が完全には理解されていないことが、不安や恐怖を生み出す要因となっています。

情報の複雑性
ワクチンの仕組みや効果、副反応などに関する科学的情報は複雑で、一般の人々にとって理解が難しい場合があります。この情報の複雑性が、誤解や不安を増幅させる要因となっています。

メディアと情報伝播
ソーシャルメディアの発達により、科学的根拠の乏しい情報でも急速に拡散される環境が生まれています。「シェディング」のような概念は、その不確実性と恐怖喚起性から、特に注目を集めやすい傾向があります。

信頼の問題
政府や製薬会社、専門家に対する不信感が、科学的な説明よりも陰謀論的な解釈を信じやすくさせる背景となっています。

次世代mRNAワクチン「レプリコンワクチン」について

最後に、Elemental_Ph.D.氏は次世代mRNAワクチンとして注目されているレプリコンワクチン(コスタイベ筋注)についても言及しています。このワクチンは従来のmRNAワクチンと同様に適切な治験を経ており、他のワクチンと比較して特段の危険性は認められていないとしています。

しかし、新しい技術であることから、公衆の不安や疑問に丁寧に対応していく必要性を強調しています。医療専門家には、科学的知識を分かりやすく説明し、一つ一つの疑問に答えていく役割が期待されると締めくくっています。
レプリコンワクチン(コスタイベ筋注)
レプリコンワクチンは、従来のmRNAワクチンの進化形として位置付けられる次世代型ワクチンです。主な特徴と利点は以下の通りです

自己増殖能力
レプリコンワクチンは、ウイルスの自己複製機能を模倣したmRNAを使用します。これにより、少量の投与で長期間にわたり抗原タンパク質を産生し続けることが可能になります。
持続的な免疫応答
自己増殖能力により、体内での抗原提示が長期間継続されるため、より強力で持続的な免疫応答を誘導することができます。
低用量での有効性
従来のmRNAワクチンと比較して、より少ない投与量で同等以上の効果が期待できます。これにより、副反応のリスク低減や製造コストの削減が可能になります。
幅広い適用可能性
感染症予防だけでなく、がん免疫療法など、様々な分野への応用が期待されています。
安定性の向上
レプリコン技術により、mRNAの安定性が向上し、保存や輸送がより容易になる可能性があります。

コスタイベ筋注は、このレプリコン技術を用いた新型コロナウイルスワクチンとして開発されました。臨床試験では、従来のmRNAワクチンと同等以上の有効性と安全性が確認されています。
ただし、新しい技術であるため、長期的な安全性や有効性については継続的な監視が必要です。また、公衆の理解を深めるための丁寧な情報提供と、発生し得る懸念に対する科学的な説明が重要となります。
医療従事者や研究者には、この新技術の利点とリスクを適切に評価し、一般の方々に分かりやすく伝える役割が求められています。レプリコンワクチンの今後の発展と、それに伴う社会的な議論の進展が注目されます。

医療者の責務と過去の教訓「差別なき社会へ向けて」

我々、一般の医療者が果たすべき役割は、例えばこうした「シェディング」懸念に対する社会の対応において極めて重要です。

正確な情報提供
最新の科学的知見に基づいた情報を、患者やその家族に分かりやすく提供することが求められます。複雑な医学用語を避け、誤解を生まないよう配慮しながら説明することが重要です。

傾聴と共感
患者の不安や懸念に耳を傾け、その感情を受け止めることが大切です。単に科学的事実を述べるだけでなく、患者の心理的側面にも配慮した対応が必要です。

継続的な学習
常に最新の医学情報を学び、自身の知識を更新し続けることが求められます。特に新しい技術や治療法については、積極的に理解を深める努力が必要です。

偏見との闘い
医療現場における偏見や差別的態度を認識し、それらと闘う姿勢を持つことが重要です。自身の中にある無意識の偏見にも気づき、改善していく努力が求められます。

しかし、ここで立ち止まって考えなければならないのは、かつてのハンセン病患者に対する隔離政策がもたらした重大な人権侵害の教訓です。この歴史的事実は、科学的根拠の乏しい恐怖や偏見が、いかに深刻な差別と人権侵害につながるかを如実に示しています。

レプリコンワクチン接種の有無による入店拒否などの措置は、ハンセン病隔離政策の過ちを繰り返すものであり、断じて容認できません。そもそも、ワクチン接種の有無を外見から判断することは不可能であり、このような措置は単なる偏見と差別を助長するだけです。

さらに重要なのは、このような差別的行為が公衆衛生上の効果をもたらさないどころか、社会の分断と不信感を深めるだけだという点です。科学的根拠に基づかない排除は、健全な社会の構築を阻害し、結果として公衆衛生の目的にも反することになります。

私たち一人一人が、過去の過ちから学び、科学的知見と人権尊重の精神に基づいて行動することが求められています。医療者は特に、この責任を強く自覚し、差別や偏見のない社会の実現に向けてリーダーシップを発揮する必要があります。

新しい科学技術への不安は、丁寧な説明と対話によって解消していくべきものであり、学んだ医学や薬学の知識や技術を決して排除や差別の口実に使ってはいけません。私たちの社会が、科学的理解と人権尊重の上に成り立つものであることを、ここに強く主張し、全ての人々がお互いを尊重し合える社会の実現に向けて、不断の努力を続けていきましょう。
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