Natureに掲載された最新の研究では、556名の参加者を対象とした4つの実験を通じて、AIの共感能力が検証された。特筆すべきは、患者がネガティブな相談をする場面においてAIの優位性が顕著に表れた点である。さらに興味深いことに、応答者がAIであることが開示された後でもその評価は維持されたという。
これまで医療界では「腕は良いが愛想の悪い医師」よりも「腕は劣るが人当たりの良い医師」を患者が選ぶ傾向が指摘されてきた。同様の傾向は薬剤師に対しても当てはまり、服薬指導や副作用の説明において、薬学の専門知識の深さよりもコミュニケーション能力が求められる傾向にあった。しかし、AIが診断精度や医薬品知識だけでなく共感能力においても人間の医療者を凌駕する可能性が示された今、医療プロフェッショナルの役割は大きな転換点を迎えようとしている。
薬剤師の場合、処方箋に記載されない患者の生活習慣や併用薬、さらにはアドヒアランスに影響を与える社会的要因など、患者個人がAIへの入力だけでは把握できない重要な情報を収集する能力が一層重要となるだろう。医師同様、薬剤師にもAIを効果的に活用するためのプロンプトエンジニアリング能力が求められる時代が到来しつつある。
医療の未来において、医師や薬剤師といった人間の医療者とAIは対立する存在ではなく、相互補完的なパートナーとしての関係を築いていくことが望ましい。そのためには、AIの長所を理解し、それを活かしつつ、人間にしかできない観察や判断を提供できる医療者の育成が急務となるだろう。特に薬局においては、AIによる自動応答システムと薬剤師の専門的介入を適切に組み合わせることで、より質の高い患者ケアの実現が期待される。
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