icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc

薬局DXニュース解説

2024.01.18

散薬も事後鑑査の時代が来るのか?! スペクトル分析時代の幕開けと今後

  • facebook
  • twitter
  • LINE

1月17~19日にインテックス大阪で開催中の「次世代薬局EXPO 2024大阪」において、株式会社ウィズレイが開発した一包化散薬鑑査支援装置「コナミル」シリーズのブース展示が行われている。

【ウィズレイ】近赤外光照射で散薬鑑査‐携帯型の装置発売 https://www.yakuji.co.jp/entry107593.html
【次世代薬局EXPO 2024大阪】ブース展示および出展社セミナー登壇のお知らせ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000094398.html

薬事日報さんの記事と株式会社ウィズレイさんのプレスリリースからです。
(本記事では処方内容の〝監査〟と区別して、モノの〝鑑査〟として表記します)


昔から散薬鑑査といえば、作業フロー的には分包機にかける〝前〟の時点で、バーコードを用いて手に取った散薬が正しいかの〝照合〟と、電子天秤を使った正しい〝秤量〟をチェックするものでした。散薬は一旦混合されてしまうと、モノの正誤をチェックしようがないからです。

それがスペクトル分析のテクノロジー発展によって、分包した〝後〟の散薬を鑑査できる時代が到来したということです。これが何を意味するかというと、〝実際に患者が服用する状態のモノ〟の正誤をチェックするということ。

つまり、処方応需から調剤を経て患者の服用までを全フローとした場合に、〝チェック〟がより服用時点に近づいたという意味で、〝チェック〟から〝服用〟までの時間が短くなるため、より安全性が高まることになります。

もうあとは、薬袋への入れ間違いや、患者への渡し間違いとか、患者が手元にある別の薬包を飲むとかしか、起こり得るミスは無いわけですから。

さて、記事にある〝近赤外線〟を用いた鑑査ですが、特定の光線を鑑査対象物に照射して生じる反射光の成分を分光スペクトルとして、その波形の特徴から照合するものです。近赤外線分光法自体は水分子を多く含んだ対象物は、やや苦手なことが知られています。*1

ただし、本記事の装置はこの近赤外線分光だけではなく、ラマン分光というレーザー光照射後に生じる散乱光をスペクトル分析する手法も併用。それぞれ異なる得手・不得手が相補的に組み合わされ、鑑査装置としての品質を高めているようです。

具体的な散薬鑑査の実験では、近赤外線分光は感度において有利で、ラマン分光だと特異度が比較有利とのデータがあり、組み合わせて良いとこ取りをすることで、感度96%・特異度95%を達成したという論文を読んだことがあります。*2

そこから4年近くが経過し、さらに溜まった知見や技術がどのように製品の鑑査レベルに反映されているのか?紹介されている大阪でのイベントが注目されますね。

最後に一点、散薬鑑査で構造的な宿命に触れておきます。それは、どこまでテクノロジーが進んでも、細かい粒子が複数種混じる散薬分包の完全な鑑査は出来ないこと。当たり前ですが、鑑査結果はあくまで〝確率提示〟になります。コロナ禍におけるPCRのCt値をどう判断するかで問題になった構造と似ているかも知れません。

分光スペクトルの照合だと、どこまでいっても〝適合度〟という名の〝正解率〟になります。そこをどう捉えるか次第ではありますが、散薬の鑑査においては将来的にも薬剤師がその任を完全に離れるのは難しいのかも知れません。そこが、服用単位に識別子を付与したり、個体認識技術の発展がみられる錠剤と異なることは、念頭においた方が良いでしょう。

*1 竹内勇輝,透過型ラマン分光法を用いた製剤中のクリスタルおよびその解離物の定量, 製剤機械技術学会誌, 2020, Vol.29 No.3
*2 森山圭,近赤外分光法およびラマン分光法による一包化散剤識別能力の検討, 製剤機械技術学会誌, 2020, Vol.29 No.4
  • facebook
  • twitter
  • LINE

RELATED