icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc

薬局DXニュース解説

2026.05.01

「2分間の衝動」が患者情報を晒す――BeReal漏洩が薬局に突きつけるリスク

  • facebook
  • twitter
  • LINE

「友達限定だから大丈夫」。そう思った瞬間、処方箋が、調剤棚が、患者名が画面に映り込む。Z世代に急拡大するSNSアプリ「BeReal」が引き起こす医療情報漏洩が相次いでいる。薬局は個人情報の宝庫であるがゆえに、その被害は甚大になりかねない。薬剤師・薬局管理者が今すぐ知るべき実態と対策を整理する。

「通知が来たら2分以内」――BeRealという時限爆弾
BeRealというSNSアプリをご存知だろうか?、BeRealは1日1回、ランダムなタイミングで通知が届き、2分以内に前後カメラで同時撮影した加工なしの写真を投稿するSNSである。飾らない日常を共有するというコンセプトではあるが、投稿が遅れるほどアプリ内で「遅刻」と表示され、タイムプレッシャーが生じる設計だ。この「即時性」こそが最大のリスク要因であり、ユーザーは通知が届いた瞬間に画面周辺を確認することなく撮影してしまいがちである。
薬局業務の現場を想像してほしい。調剤室のPCには患者氏名・生年月日・処方内容が表示されている。投薬カウンターには服薬指導記録が開いたままになっている。棚には処方箋の束が並ぶ。BeRealの通知が鳴った瞬間、これらすべてが「背景」として撮影対象になり得る。
相次ぐ医療現場での漏洩事案
2026年4月、熊本市内の病院で理学療法士とみられる職員がBeRealに投稿した写真に、認知機能評価用紙(MMSE-J)と患者氏名が鮮明に写り込んでいたことが判明した。病院は翌日に公式謝罪を発表し、内部調査と再発防止策を講じることを明らかにしている。

2025年10月には北海道の市立総合病院で、医療事務の委託職員が受付モニターに表示された患者20人分の氏名・患者番号・主治医名などをBeReal経由で流出させる事案も起きている。閲覧者は3名にとどまり2次流出はなかったとされるが、行政への報告と公式謝罪が必要となった。

いずれの事案にも共通するのは、投稿者が「とっさに撮影してしまった」という点だ。情報漏洩の意図はなくとも、BeRealの設計が判断を奪う。
薬局はなぜ特にリスクが高いのか
薬局が医療情報漏洩において特にハイリスクな環境である理由は三点ある。
第一に、個人情報の密度が極めて高いことだ。処方箋、薬歴、お薬手帳のスキャンデータ、調剤録には、氏名・生年月日・住所・疾患・処方薬名が集積している。一枚の写真に複数患者の情報が映り込む可能性がある。
第二に、カウンター越しの対面業務が多いことだ。投薬カウンターでは、画面や書類が対話の中心に置かれる。撮影者本人の背景だけでなく、フロント越しに見える書類も映り込む。
第三に、若手スタッフの比率が高く、BeReal利用層と重なることだ。実習中の薬学生、新卒薬剤師、医療事務スタッフはZ世代が多く、日常的にBeRealを使用している可能性がある。「学生時代の習慣」が就職後も継続することは、他業種の事案でも繰り返し確認されている。

問われる法的責任と組織への打撃
患者情報が含まれた投稿が確認された場合、個人情報保護法(第17条・第23条等)への違反が問われる。医療職については守秘義務違反が別途成立し得るほか、薬剤師法第24条の規定に基づく行政処分の可能性もある。
組織側のダメージはさらに広範囲にわたる。公式謝罪・内部調査・再発防止策の策定に要する業務コスト、患者・地域への信頼損失、場合によっては損害賠償リスク、そして採用・人材確保への長期的な悪影響が連鎖する。また、BeRealの利用規約ではアカウント削除後も投稿画像を使用できるとする条項があり、アカウントを削除してもネット上では公開され続けるという最悪の状態となり、「友達限定」の投稿が、薬局全体の存続を揺るがすリスクへと転化し得るのである。

薬局管理者が取るべき三つの実務対応
①SNSポリシーをBeReal対応に刷新する
既存のSNS規定がInstagramやX(旧Twitter)を念頭に書かれている場合、BeRealのような「通知型・即時投稿型」アプリへの言及が欠落している可能性が高い。薬局内および業務時間中における通知型SNSの使用制限を明文化することが急務だ。

②採用・実習オリエンテーション時のSNSリスク教育を徹底する
「友達限定は安全」「すぐ消えるから大丈夫」という誤認が事案の根底にある。具体的な漏洩事例を使って「なぜ意図がなくても違反になるか」を伝える実務教育が、抑止効果において最も直接的だ。

③情報が表示された状態でのスマートフォン使用ルールを再確認する
個人情報を表示中のモニターや書類の前では私物スマートフォンを操作しないというルールは、BeRealに限らず有効な原則だ。薬歴管理システムの入力中・投薬カウンター立業中のスマートフォン操作禁止を、全スタッフへ改めて周知する機会とすべきである。
薬剤師に問われる「情報リテラシー」
薬剤師は医薬品の専門家であると同時に、患者の最も個人的な情報を日常的に預かるプロフェッショナルである。疑義照会や服薬指導の質を高める努力が続く一方で、スマートフォン1台の「衝動」がその信頼を一瞬で崩し得る時代になった。
「BeRealをアンインストールしろ」という極論ではなく、「医療の現場でスマートフォンをどう使うか」「民生用のチャットサービスを業務で使用するべきか?」を職業人として問い直すことが、今、求められている。
  • facebook
  • twitter
  • LINE

RELATED