医療技術と製薬イノベーションの未来を左右する重要な課題が、日本の薬価制度をめぐって浮上している。日米欧の主要製薬団体が、現行の毎年の薬価改定システムが創薬意欲と医薬品アクセスを阻害していると強く警鐘を鳴らしている。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)のダニエル・オデイ会長は、日本の薬価改定が深刻な「ドラッグ・ロス」を引き起こしていると指摘する。2014年から2023年の間に欧米で発売された新薬245品目が日本では未承認のままであり、さらに欧米で最終段階の治験が進む新薬候補601品目のうち、実に7割が日本での臨床試験の対象外となっている現状を明らかにした。
石破茂首相との会談においても、製薬業界は毎年の薬価引き下げが日本での創薬投資に逆効果をもたらす可能性を強く訴えている。現在の中間年改定として毎年行われている薬価改定を、従来の2年おきの改定に戻すことを日本製薬工業協会(JPMA)、米国研究製薬工業協会、欧州製薬団体連合会の3団体が共同で提言している。
特に懸念されているのは、イノベーションへの投資環境の悪化である。製薬企業は、創薬に対する国家戦略の再考と、研究開発投資を呼び込むための明確な評価指標の策定を求めている。さらに、外資系製薬企業やベンチャーキャピタルを含む官民協議会の設置、省庁横断型の常設組織の創設も提案されている。
医薬品不足の問題と海外の先進的な医薬品へのアクセス制限は、日本の医療システムの持続可能性に大きな疑問を投げかけている。製薬業界の提言は、単なる経済的要求ではなく、日本の医療イノベーションと国際競争力を維持するための建設的な提案として受け止める必要がある。今後、政府と製薬業界の対話を通じて、バランスの取れた薬価制度の再構築が求められている。
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