真に使いやすい現場目線のシステムで、薬剤師の「あるべき姿」を守りたい~株式会社ソラミチシステム 田浦貴大代表インタビュー
薬局DXを牽引する主要ベンダー企業のトップにインタビューし、経営理念、製品・サービスの魅力、開発姿勢などに迫る本企画。今回は、株式会社ソラミチシステムで代表取締役を務める田浦貴大氏にお話を伺います。
田浦 貴大(たうら・たかひろ)
株式会社ソラミチシステム 代表取締役
福岡大学卒業後、社員教育コンサル会社に入社し、3年でトップセールスとなり独立。医療系システム会社の営業コンサルタントとして、エリア管理・新卒採用・新卒研修などを担当し、延べ1000名以上の薬剤師と関わる。2018年に株式会社ソラミチシステムを設立し、代表取締役に就任。クラウド電子薬歴システムの提供を開始し、1年強で700件を超える薬局に導入。日本の医療プラットフォーム構築を目指し、薬局向けシステムを展開している。
効率化でかなえる「ハートフルな医療」とは?
――まずは、貴社設立の経緯をお聞かせください。
15年ほど前からレセプトコンピュータや電子薬歴システムを開発・販売する事業に携わっていたので、私自身も調剤薬局に入り浸りながら働いてきました。その時に気付いたのが、現場には機械が苦手な中高年層の薬剤師も多く活躍しているということ。どんなに高機能なシステムを開発しても「分からない」「新しく覚え直すのが面倒」といった理由で使われない現実を目の当たりにして、よいシステムを作れば売れるわけではないことを実感しました。「現場の薬剤師が喜んで使ってくれるシステムを作り、業務効率化につなげたい」という思いから、これまでにないクラウドでの電子薬歴システムの開発を考え始めるように。賛同してくれる方も徐々に現れ、2018年に株式会社ソラミチシステムを設立しました。
――貴社の特徴や経営ビジョンについて教えていただけますか。
薬剤師だけでなく、その向こうにいる患者さんまでを見据えています。調剤薬局をはじめとする医療現場では、心ある医療従事者ほど一人ひとりに寄り添おうとして時間が取られ、疲弊してしまうという現実も見てきました。「医療をもっと効率化して、ハートフルなものにしたい」というのが私たちの目指すところです。「医療の効率化」と「ハートフルな医療」は相反するイメージかもしれませんが、記録などに費やしていた時間を患者さんとの対話に充てられれば、もっと相手を思いやりながら医療が提供できると思うのです。さらに、薬剤師が患者さんにしっかりと向き合って信頼関係を構築できれば、これまで通院や服薬が続かなかった方に行動変容を起こせるかもしれない。こうして病気の進行や合併症を防ぐ「予防医療」の推進も、当社が掲げる大切なビジョンの一つです。
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「薬剤師の意識をも変えられる電子薬歴システム~主力製品であるクラウド電子薬歴「CARADA 電子薬歴 Solamichi」の魅力~」
薬剤師の意識をも変えられる電子薬歴システム
――主力製品であるクラウド電子薬歴「CARADA 電子薬歴 Solamichi」の魅力を教えてください。
「誰でも簡単に使える」ことです。マニュアル車ではなく、オートマ車のようなイメージですね。具体的な機能の一つが、特許取得済みの「指導ナビ」。これは、患者さんにこれまでにお伝えした内容を記録しておいて、次にお伝えするべき指導などをナビゲートしてくれる機能です。
例えば高血圧などの慢性疾患で通院していると、ほとんどの場合は毎回同じ薬剤が処方されますが、いくつもある処方上の注意や副作用などをすべて伝えたところで、患者さんは覚えられません。この機能を使えば、毎回の服薬指導時に異なる内容を、漏れや被りなどなくお伝えできます。薬剤を取りに行くたびに違うことを言ってもらえたら、患者さんも耳を傾けてくれるのではないでしょうか。
さらに、患者さんと薬剤師のやり取りを録音し、会話を分析して主訴や指導内容をSOAP形式で書き出してくれるAI薬歴作成支援サービス「corte(コルテ)」を活用すれば、後からあたらめてPCに記録する必要もなくなります。これは弊社とcorte社が共同開発し、2024年11月に、日本調剤株式会社が運営する調剤薬局50店舗に導入されたばかりの新しい機能です。薬剤師が服薬指導をする前後に「CARADA 電子薬歴 Solamich」内の録音ボタンを押すだけで、指導の内容がシステム上で自動生成されるので、内容を確認し必要事項を転記することで薬歴の作成が可能になります。
――現在、創業から6年目になりますが、手応えはいかがですか。
おかげさまで、導入ユーザー数は約3000件(2024年10月時点)となり、5年以内に1万件の達成を目指しています。また、シンプルな画面構成と簡単で分かりやすい使用感、そして薬剤師だけでなく患者さんの治療に役立つことまで考えられたサービスである点などを高く評価いただき、2021年度にはグッドデザイン賞を受賞しました。私は「売ったら終わり」ではなく、売ってからが本当のお付き合いだと思っているので、導入件数が増えることはもちろんありがたいですが、現場での使いやすさとその向こうにあるビジョンが評価されたことは非常に感慨深いですね。
――実際のユーザーからは、これまでどのような反響がありましたか。
83歳の薬剤師が「私でも使える」と太鼓判を押してくれました。やはり「分かりやすい」「使ってよかった」といった声が圧倒的に多く聞かれます。さらに、システムを導入したことによる、現場の薬剤師の変化も感じています。例えば、「眠剤」などの言葉が音声認識されなかったことで、自分が無意識に専門用語を使っていたことに気付いたという声がありました。AIが認識・要約できない言葉は患者さんも理解できていなかった可能性が高いので、より平易な言葉を用いて説明を尽くすようになったと言うのです。また、家族経営のとある薬局では、これまでタイピングが遅く記録に四苦八苦していた高齢のお父様に対し、息子さんが「自動的に記録されるから大丈夫、患者さんとたくさんお話しして」と言ってあげられるようになった――とも聞きました。
「この薬剤師から薬を受け取りたい」を増やす
――貴社の今後の目標をお聞かせください。
システムをより便利にアップデートしていくのはもちろんのこと、薬剤師の教育事業も併せて推進しています。指導のノウハウ、伝わりやすい声のかけ方、心の通わせ方などをシステムと教育の両軸でサポートし、薬剤師が患者さんを元気にできるような医療の実現に寄与することが目標。薬剤師としてのやりがいと、患者さんの治療効果の両方を向上させていきたいです。
やや極端な言い方かもしれませんが、システムだけ、効率化だけを求めるのであれば、他社のシステムを選んでいただいてもよいとさえ思っています。「医療の効率化」「ハートフルな医療」「予防医療」といった思いに賛同いただける調剤薬局に導入してもらい、長くお付き合いできればと考えています。
――最後に、薬局関係者の皆さんにメッセージをお願いします。
人口が毎年50万人以上減っている現代、薬剤師の価値は「服薬指導」から「療養支援」に変化しつつあると感じています。受診の最後に患者さんと対話し、日常生活に送り出す薬剤師は「命を守る最後の砦」と言っても過言ではありません。数をこなすのではなく、患者さんに寄り添い、人生に伴走することが薬剤師のあるべき姿です。「この人から薬を受け取りたい」と患者さんに思ってもらえるような薬剤師を1人でも増やし、日本の調剤薬局、ひいては日本の医療を一歩先へと前進させるような役割の一端を担いたいと願っています。
(取材実施 2024年10月)
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